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「すごい! すごいよ! 夜を取り戻す戦士……闇の戦士は本当にいたんだよ!」
 訓練で少し疲れていた身体が嘘のように軽くなった。遠い昔にお母さんが話してくれた闇の戦士の話。村のみんなは信じなかったけど、本当だったんだ。本当に闇の戦士が夜を取り戻すために現れたんだ。
「レイさん! そのララの人はどうしたの!?」
 わたしがそう聞くと、レイさんは困ったような表情をした。
「いや、それが……僕も話をファノブの里の人から聞いただけで、そのあとの消息はわからないんだ。けれど、空に夜が戻ったのは本当だよ。この目で見たから。無数の星が瞬く天の暗き海を」
「すごい……本当にすごいよ! ねえ、ぷぅこもそう思うでしょ!」
「う、うん……」
 ぷぅこのほうを見ると、彼女は驚いた表情をしたまま、頷いた。気のせいかな。何故か、あまり嬉しそうに見えなかった。
「それでもう一つ重大な情報を掴んだのよ!」
 続いてびなこさんが言った。
「イル・メグのリェー・ギア城で新たな大罪喰いの活動を確認したって! みゅう晶公さまからその討伐をぜひ、ノブさんたちにやってほしいって!」
「みゅう晶公さまから!?」
 思わず大きな声が出てしまった。みゅう晶公さまはクリスタリウムの建設に大きく貢献した指導者だ。罪喰いの被害を受けた周辺の村々の人、国を追われた難民たちを受け入れ、罪喰いからみんなを守るためにクリスタルタワーを呼び寄せた。みんなから慕われ、何十年も罪喰いの脅威からみんなを守り続けている。
「ほら、既に公から辞令の『アーカイマイマイいきなりぴょん♪』の手紙を預かって来たわよ」
 そう言いながら、びなこさんがポケットから手紙を取り出して、ノブさんに差し出した。
「これは紛れもなく……みゅうさんの筆跡!」
 手紙を読んだノブさんが目を見開いた。ノブさんと公は古い友人同士で、公のいる星見の間へよく行く姿を見かける。それだけ、ノブさんのことを信頼しているんだろう。
「闇の戦士が現れ、みゅうさんが一番に俺たちに大罪喰いの討伐を依頼してくれた。この期待に応えないといけない」
 手紙を読み終えたノブさんがわたし達を見回す。
「俺のギャザクラ日記の配信……いや、みんなの名を広める千載一遇のチャンスだ。討伐部隊を編成し、短期間で練度をあげて、大罪喰いを倒しに行こう。PD、できそう?」
 先生は考える仕草をとった。
「既にここにいる皆は充分に罪喰いの実践に臨めるレベルに達しています。あとは80のスキルの精度を詰めれば、問題ないかと思いますが……」
「だめ!!」
 突然、大きな声が周囲に響いた。みんなが驚いて目を見開く。わたし自身もそうだった。だって、そんなに大きな声が彼女から……ぷぅこから出るなんて思いもしなかったのだから。
「他のみんなは良いかもしれない。けど……あやかはまだダメ。まだ、大罪喰いと戦うのは早すぎる」
「え……?」
 ぷぅこからそんな言葉が出てくるなんて、予想もしてなかったわたしは言葉を失った。
「お言葉ですが、ぷぅこ。私はあなたもあやかもよく頑張っていると思っています。私の出した難しい課題、訓練の数々をしっかりこなしている。それにあやかの他の人を元気にする力は士気をあげることにも繋がります。見劣りすることは……」
「それでも!」
 ぷぅこは先生が話すのを遮った。
「あやかを大罪喰い討伐には行かせたくない。行くなら、私が行きます」
「……なんで?」
 しばらく黙っていたわたしはようやく声を出した。
「ぷぅこ、なんで、そんなこと言うの!? わたし、全然だめなの? 今まで毎日毎日練習頑張って、家に帰ったら復習して、次の日の訓練の予習もしたよ! 罪喰いと戦った時も足手まといにならなかった!」
 わたしはぷぅこのほうに駆け寄って、彼女の両肩をつかんだ。
「約束……約束したじゃない! 二人で一緒に戦おうって! 夜を、星空を見ようって! 約束……」
「……そんな約束、もう忘れた」
 ぷぅこのその言葉を聞いて、胸の奥から何かが込み上げてきた。嬉しい気持ちじゃない。これは悔しさと悲しい気持ちに違いなかった。
「ぷぅこのバカ! もう、わたし知らない!」
 わたしはぷぅこを後ろへ突き飛ばした。ぷぅこは抵抗することなく、地面に尻もちをついた。頭の中がぐちゃぐちゃになった。目からも涙が溢れてくる。
「……っ!」
 私は砦の出口のほうに向かって走り出した。
「あっ! あやかさん、ちょっと!」
 ノブさんや他のみんなが呼び止める声が聞こえたけど、わたしは立ち止まらなかった。無我夢中に走って、クリスタリウムへ向かった。
 どうして……どうして、そんなこと言うのよ……ぷぅこ。
「ああああ……うわあああああああああああああ!」
 言葉に出来ず、代わりに泣き声をあげた。何年ぶりかもわからず、ひたすら泣いた。

更新日:2021-02-03 19:41:15

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