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小説

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ずっとずっと

 コンコン。
 小さくノックの音が聞こえてドラルクは目を開ける。閉ざされた空間で時計を見ると陽もとうに落ちた時間だ。
 棺桶のフタを開ければ朱い髪がさらりと中へ流れ落ち、いたずらっぽい瞳がのぞいた。

「ドラルク! クッキーが食べたい!」
「やれやれ、目覚めの挨拶はそれなのかな」

 起き上がってそう言うと相手は一瞬ムッとした顔をしたが、小さな手が首にまわり頬にキスされる。

「おはようドラルク」

 目覚めの挨拶はいつも「おはよう」だ。

「おはよう、マイプリンセス。クッキーなら焼いたのがまだあっただろう」
「ジョンがぜんぶ食べちゃったんだもん」
「ヌンヌヌヌイ!」

 横に居たジョンが抗議の声を上げた。

「1枚だけって言ったのに、もうちょっと、もうちょっと、って食べたのはジョンでしょ」
「ヌンヌヌヌヌヌ!」

 齢を重ねたアルマジロは小さな少女と本気でケンカしている。

「はいはい。じゃあ今日はクッキーにしようか」

 立ち上がったドラルクにジョンが飛び乗り肩まで駆け上る。
襟元のヒラヒラを着けなくなって以来、ひとつに結った後ろ髪を触るのがお気に入りらしい。

「もードラルクったらなかなか起きないんだもん!」
「もしかして、ずっと棺桶の前で待ってたのかい。ママに作ってもらえばよかったのに」
「だってドラルクのクッキーの方がおいしいんだもの」
「やれやれ、ドラちゃんクッキーのレシピは君のママにもちゃんと伝授したはずなんだけどね」
「ええーぜんぜん違うよ」

 少女は異議をとなえる。
 実際、ドラルクが認めた味のクッキとー並べても、彼女は間違いなく選び抜いてみせた。

「ほんとうに君もクッキーが好きだねえ」
「うん大好き!」

 いつかどこかで聞いたセリフだな、とドラルクは微笑む。
 屈託がない笑顔に「彼女」が重なった。
 ピンと跳ねたアンテナのような髪、無邪気な笑顔。本当にそっくりだ。瞳の色が緑じゃないのはご愛敬か。

「ドラルクーおやつー!!」
「ブエー」

 後ろからタックルされてドラルクはあっという間に塵になる。
 しかしすぐに復活して、そいつをつまみ上げた。

「こら5歳児、飛びつくなと言っただろう」
「おれはバナナのなんかがいい!」

 つまみ上げられたちびっ子はあくまでおやつのリクエストをする。

「ざんねんでしたー。もうクッキーって決まったもんね」
「ちくしょー!」
「グワー」

 八つ当たりにドラルクはもう一度殺される。
 くるっと巻いた金色のくせ毛も垂れ気味の青い目も、あの「若造」にそっくりだ。
これ以上ゴリラにならんでくれ、とドラルクは祈る。

「な、メビヤツもバナナのおかしたべたいよな」

 ビービビビ ビビ ビビービ ビビービ

 後ろからついてきたかつての兵器も「バナナ」と同意した。

「ずるい! メビヤツはいつもあんたの味方でしょ」
「じゃあ死のゲームもバナナだよな!」

 抱えられていたゲーム機は突然名指しされて慌てる。

「いやいや、俺様は食べられないですから」
「そうだよ! 食べないふたりぶん足してもダメ! ね、ジョンもクッキーがいいよね」
「ジョンもバナナのおかしがたべたいよな!」

 ふたりに詰め寄られてアルマジロは困ってしまう。

「ヌンヌ、ヌッヌヌヌ」
「どっちでもなんてダメよ!」
「そーだ! じゃあ、あっちでキンデメにきめてもらおうぜ」
「こらこら、その辺にしときなさい」

 放っとかれた製作者がヒートアップする議論を止める。

「仕方がない、それじゃ今日はバナナクッキーにしようか」

 いい提案だ、と思った直後、

「「えーー」」

 不満そうな声が重なる。

「この間もそうだったじゃない。クッキーはシンプルな方がいいな」
「もっとバナナーってかんじのがいい!」
「ヌヌヌヌッヌーヌヌ」

 同意してくれるのはジョンばかりだ。

「わかった。じゃあバナナクッキーはジョンだけでいいんだな」

 子ども達を置いて廊下へ向かうとふたりは慌ててついてくる。

「わたしもバナナクッキーでいいよ!」
「おれも!」

 ドラルクは足を止めて振り向き、大げさに眉を歪めてみせる。

「『で』いい?」
「バナナクッキー『が』いいな」
「うんうん!」
「ドラルクのお菓子はどれもおいしいんだもん」
「せかいいち!」

 わざとらしいゴマすりだが悪い気はしない。

「まあいいだろう」
「「やったー」」

更新日:2021-01-31 14:06:45

【二次創作・吸死】ずっと ずっと