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 いつから何が間違ってしまったのかは、もう覚えていない。気がつけば、私には信じる相手がいなくなって、周りに見えるのは敵ばかりになっていた。唯一の友達も、いつのまにか敵のうち。そうして私はひとりぼっち。
 誰も彼もを敵扱いするのは少しやりすぎだったのかもしれないけれど、私にはそうとしか思えなかった。だって、いつだってこそこそと陰口を言われて、子供じみた嫌がらせを何度も受けて、それを止めてくれる人も心配してくれる人もいなかったんだから。相談できる相手はいなかったし、誰かに話したところで何かが変わるようには思えない。むしろ、行動すればより状況が悪くなるように思えるんだもの。
 私は一人、味方なんていない。思い込みだったとしても、私にとってはそれが本当。どんな時でも味方はいる、だとか、辛い時は頼っていい、だとか、そんな言葉はみんなフィクション。そうでなければ、私はあれだけ苦しまなかったわ。
 死にたいと思ったことだってある。けれど、踏み切る勇気はなかったし、そんな風に自分の人生を無駄にするのが馬鹿馬鹿しく思えて、結局その思いは風化していった。生きていたくないけど、死ぬのも嫌。どちらにも希望は見出せない。宙ぶらりん。どうせなら、生まれてこなければよかったのに。

 そんなある日、気がついたら側にいたのがこの悪魔だった。学校からの帰り道、家に帰りたくなくて、明日が来るのが嫌で、ふらりと立ち寄った公園。何をするでもなくベンチに座っていると、いつからいたのか、悪魔は知らないうちに私のすぐ隣に座っていた。いきなり声をかけられて、やっと私はその存在に気がついたのだ。
「お悩みですね、お嬢さん」
 びくっとして声の方を向くと、見知らぬ青年が私に微笑みかけていた。例の微笑みはこのときから変わらない。柔らかく優しげで、心の中を見透かしているようで、どこか人間とは違うものを感じさせる、独特の笑み。悪魔的、という言葉がよく似合う。
 そのときはまだ、それが悪魔だなんて知らなかったから、私は突然現れた相手にただただ驚いて黙りこくっていた。そんな私にひらりと手を軽く振ると、悪魔は尻尾をそこに伸ばして、私によく見せるようにちょっと弄んだ。
「怪しいものではありませんよ、ご覧の通りです」
 私はもう唖然としてしまって、くねる尻尾と悪魔の顔をゆっくり交互に見比べた。そんな私の反応を楽しんでいるらしい悪魔は、尻尾を離すとにこにこしながら言った。
「少しお話しませんか?何も恐ろしいことはしませんし、私にそんなことはできません。ただ、あなたの考えや思いに興味があるのですよ、素敵な心のお嬢さん」
 顔をぐっと近づけて私の目を覗き込む悪魔。本当に心を覗き込めるようにも思える瞳。そこに映る怯えた私自身の姿を見て、なんだか目の前で起きていることがみんな大したこともないように思えてきた。たぶん、もう頭がこの状況を処理するのを諦めたんだろう。

更新日:2020-09-18 21:28:36

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