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 ゆっくりと長い息を吐く。ずっと詰まっていたものが出ていくよう。冷たい空気も相まって、なんだか気持ちがいい。新しい一日の始まりにふさわしい感じ。
 悪魔は私の前に立ったまま、私が何を言い出すかを待っているようだった。じっと私のメモ帳を見つめて、催促するような視線を送っている。興味を持たれていることが少し嬉しい。そう認めてしまうのは悔しいけれど。
「私なりに考えてみたの。神様になれるんだとしたら、それにふさわしいことをしないと、と思って」
「ええ、あなたのことですから、きっと素敵なことを考えているのでしょう?」
 今度は私の目を覗き込む悪魔。私のことを見透かすような目。初めて会った日には怯えたけれど、もう平気。妖しい雰囲気に満ちた瞳をしっかりと見つめ返しながら会話を続ける。
「さあね。私なりには考えたつもり。さ、どんなことをしようかしら」
「そうですねえ」
 ぱらぱらとページをめくる。本当に何でもできるとなると、この思いつきたちもなんだか実行するのはもったいないような気分。どれかを試せばどれかが試せないし、もう少し煮詰めればもっといい案が出てくるようにも思える。でも何もしないのが一番もったいない。
「どうせなら、一番規模が大きくて、一番めちゃくちゃなのがいいかしら」
 ちょっとだけドキドキしながら言ってみる。なんでもできるなら、どんなことにでも巻き込めるなら、せっかくだし荒唐無稽なことの方が面白い気がした。けれど、そんなめちゃくちゃな思いつきを試すのはなんだか子供っぽいような、考え無しのような、そんな風に思われないかしら、なんて気もする。
 そんな私をよそに、悪魔はにこにことしながら答える。
「ええ、ぜひ」
「・・・じゃあ、これがいいわ」
 思いついた時から、ちょっと無茶すぎるような、でもやってしまいたいような、気に入っているような、気に入らないような――そんな風に思っていた思いつき。本心ではどう思っているのか知らないけれど、きっとこの悪魔は否定しない。私があんまり変なことをし出したって何も言わない。口を出されないっていいことだわ。まだ少し迷いながらも、悪魔に話してみる。
「この世の人たちみんなに印をつけてやるのよ」

更新日:2020-12-01 20:06:53

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