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薔薇

「異動……ですか?」
「そうだ、シム・チャンミン。日頃の仕事ぶりが評価されたんだな。おめでとう」
本社へ異動が決まった。それ自体は嬉しいこと。

「そっか。寂しくなるな」
真っ先にキュヒョンに伝えた。友達だから、離れても会おうと思えば会える。
でも、ユノには会えなくなる可能性が高い。会う理由がないからだ。
「落ち着いたら泊まりに来いよ」
「お前もな。何年?」
「とりあえず一年。あとは状況によるって」

月末に送別会があって、来月からはもう本社勤務だ。
ユノに会う機会があるかさえわからない。
あの日から仕事でもすれ違いが続き、姿を見ないことがほとんど。運良く会えても朝くらいだ。

俺に興味はなくても、人事を知らないはずはない。もしかしたら。
せいせいしたと思っているかもしれない。
誰かの差し金で飛ばされるなら、本社に行くことはないだろう。この人事は正当なものだと思いたい。

送別会の日が迫っている。家に帰るとクタクタで何もする気が起きない。
それでも、会いたくて電話する。寝転がりうとうとしながら、コール音を何回も聞いて。
手が滑り落ちそうになった瞬間、コール音が切れた。
「……あ」
「何か用か」
低く不機嫌な声が耳元で響く。途端に目が覚めて。
あの日広げられた手に札を握らせたことを、改めて後悔した。



更新日:2020-08-09 18:59:25

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