官能小説

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R-18

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ーーおれは悪くない。

だって、おれは何も、なに一つ知らなかったのだから。

そうだ、おれは悪くない…。





ーー裸の男女が淫らに絡み合う白の彫刻や男女の卑猥な姿の描かれた絵画で埋め尽くされ、辺り一面、甘く気怠い紫煙が立ち込め、薄いヴェールがあちこちに揺らめき、何本もの緋と黒の蝋燭の焔が妖しく光る広い部屋の中、
その部屋の中央の広間で、背の高い、体格の良い男二人が、足下に転がる薄汚れた中年の男に容赦無く蹴りを入れていた。

「や、やめてくれ…!ゆ、ゆるしてくれぇぇぇ!!」

堅い革靴を履いた足で蹴られている男は、情けなくも弱々しい声で許しを請うていた。

だが、二人の男達はそんな男の懇願を無視し、無言で表情ひとつ変えずに尚も男を蹴り続ける。

「……」

そんな男の姿をみたひとりの少年ーー彼もまた、屈強な男にその身を囚われていたが、は、恐怖に震え、言葉が出なかった。

…何だあれは…?あれは、ほんの数日前におれに金貨を渡していた傲慢なあの親父なのか?

「やめてふれ…、たふけて、ふれ…」

蹴られている男の身体の皮膚が破け、血が滲み、身体じゅう腫れ上がっていっても尚も、男達は執拗な私刑を止めようとしない。

…あれが、良い『カモ』を見つけろと、いつもおれに威張り散らしていた、くそ生意気な親父なのか?

「やふぇ、ふぇ、ふへ…は、はふへへ…ふほ…」

歯が折れて血が流れ、蹴られて腫れ上がった男の唇からは、最早まともな言葉がも発することは出来なくなっていた。

…あの、醜い、肉の塊は、何なのだ…?

「……あ」

少年の見ている前で、やがて男は言葉を発することもせず、ぐったりとして動かなくなり、ついにぴくりとも動かない、血塗れのただの肉塊と成り果ててしまった。

「なんだい、もう終いかい。もう少し骨のある奴かと思っていたのに。つまらないねぇ…」

肉塊と、丁度少年の居る場所と反対側から女の声がした。

そこは周りと比べて一段高くなっており、派手な金枠に縁取られ、上等な朱色のヴェルヴェットに覆われた豪華な椅子が一脚置いてあり、ひとりの初老の女が座っていた。

白の肌に白髪の混じった黒の髪、顔には年相応の深い皺が刻み込まれてはいるものの、それでも尚背筋をしゃんと伸ばし、胸もそこまで垂れず、腰のくびれもある程度残る、見事な体型をその老女は保っていた。

そしてその老女の傍らには、浅黒の肌に長い黒の髪を垂らした、豊満な胸に括れた腰の美しい身体つきをした若い娘が寄り添うように立っていた。

男のひとりが足元に転がる中年の男の遺体を一蹴りし、ふと女のほうに顔を向けた。

「こやつどういたしましょう、マダム?」

マダムと呼ばれたその初老の女は、手にしていた長くて細い煙管を啣えてふふん、と笑った。

「街の外にでも捨てときな」

「御意」

無表情で男のひとりは答え、黙ったまま片手で軽々と肉塊を抱えあげて肩に乗せると、部屋を後にした。

残るひとりの男は、脇にあった布で血塗れの床を丁寧に拭き取り、綺麗になったのを確認して一礼して部屋を後にした。

「さて、次はお前の番だよ」

くくく、と残酷な笑みを浮かべ、老女は口からゆっくりと紫煙を吐き出し、少年を嘲るように見つめた。

「お…おれは知らなかったんだ!何も知らなかっただけだ。まさか、まさかあの人が……だなんて思いもしなかったんだ!」

男に引き摺られるように、部屋の中央に連れて来られた少年は、ただただ命乞いするように、目の前にいる老女に言い訳を叫んだ。

だが、女はそんな少年の様子を嘲笑った。

「『知らなかった』は理由にならないよ。たとえお前が年端のいかぬ少年であろうともね。
この世界は弱肉強食。弱き者は全て淘汰され、強き者だけが生き残れる。そして無知な者はそれだけで愚かな弱者として見なされるのさ」

「!?」

「お前は無知であるが故に赦されない禁忌を犯した。その罪はお前自身の生命で贖ってもらうよ」

「……あ」

…そんな…おれはただ…ただあいつの言う通りにしただけなのに。何故だ、何故おれがこんな目に遭うんだ?!

まさに絶望の縁に落とされ、少年は表情を強張らせ、身体をわなわなと震わせた。

そんな少年の様子を見て、老女は満足そうにふふん、と鼻で笑って脚を組むと、再び煙管を口にした。

「だが、お前の年齢(とし)に免じて一度だけチャンスをやろうじゃ無いか」

「…え?!」

更新日:2020-07-11 11:44:40

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