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第10話 ケイトスの想い


 …そこは、赤い砂の広がる砂漠だった。
 それが眼前にどこまでも続き、そしてそこはまだ未開拓の地で
 もあった。
 そんな場所で当時、人の文明が生み出したとされる、自らの
 自我を持つ機械生命体が暴動を起こすことなど、一体誰が
 予想したであろうか…。

  「…とりわけ厄介じゃったのは、それがまた人間のように
  『子』を産み出す…ということじゃった」

 なんとその機械生命体は…自らの身体から赤子の如く、また
 別の生命体を産み出す…つまり、「子を産む」という行為を
 こなすことも可能であった。
 何度破壊しても生み出されるそれが、当時火星の人々を恐怖に
 陥れたことは、いまも忘れられない悪夢の事実である。

 …どこか遠くを見るような眼差しで、ハッサンはそのときの様子
 を語る。
 当時彼は軍に所属する科学者であり、そして…モビルスーツの
 技師でもあった。

  「そういやあんたのお孫さんは…試作機でそいつに
  挑んだんだってな?」

 ミシェルの問いにハッサンは深く頷く。
 ハッサンの孫娘、アモン・エイブラムスは、かの生体システム
 を装備した試作のモビルスーツで、その機械生命体に挑んだの
 だ。
 だが…その前にあえなく敗れ、命を落としてしまったので
 ある…。

 …それからまもなくのことであった。
 その機械生命体を討伐すべく、「ガンダムフレーム」と呼ばれる
 フレーム構造を持つ機体は完成を迎え、そして…70有余の
 個体名を持つそれが次々と投入され、戦地に赴いていった…。
 ある機体は自在に空を舞い、またある機体は人から獣のような
 姿に変形する機構を持ち、そして…絵空事の神話になぞらえた
 名と共に、その姿かたちを持っていた。

  「儂の記憶する限りでは、このまえお前さんにみせたその
  データの通りじゃよ」

 いま彼らの目の前には、そのうちの一体が静かに横たわって
 いた。
 それは、後期に生産された「ガンダムダンタリオン」であった。
 あれから機体はハッサンの元へと戻されたが、別の機体から
 移されたあの頭部は、既に外されていた。
 そして…。
 それはまもなく、エイモスの手によって完全な形へと戻され
 つつある。

  「ところでお前さんという優秀な乗り手がみつかったと
  いうに…やはり残念じゃよ」

 ハッサンがわずかに肩を落とす。
 今後何かあったとき、ミシェルにこの機体に乗ってもらおうと
 思っていただけに残念でならない。

  「短い間だったが…なんだか名残惜しいな。いい機体だった」

 ミシェルがポツリと呟く。

  「そうか。そういってくれると…孫もきっと喜ぶじゃろうよ」

 ひょっとして生きているかもしれない孫娘に、ハッサンは
 いまも密かに想いを寄せていたが…それは決して口に
 しなかった。
 だがこの機体は…彼にとっては孫娘である
 アモンに間違いはなかった。
 それは年寄りの道楽ともいえるが、そんなことはない。

 ところで先日ミシェルが地球に送られる日が決まり、彼は
 ハッサンのもとを訪れていた。
 そして…。
 彼はつい前日の出来事について、ハッサンに語り始めた。

更新日:2020-11-28 21:49:16

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