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第8話 激闘の果てに…
…その戦いが始まる少し前のことである。
ジャックはオナモが踊り子をしていた、あの酒場を訪れていた。
ところでいまは昼間なので店は閉まっている。
…だが、中ではカウンターの奥にある小さな厨房で、
小料理程度の仕込みをするこの店の女主人・マーヤの姿が
あった。
そんな彼女が、半ば腐りかけた野菜に手をかけたときで
あった。
「マーヤ叔母さん」
その場に突然現れたのはジャックだった。
「いきなり人の家に忍び込んで…本来なら不法侵入で警察を
呼ぶトコだよ」
マーヤはジャックに構わず、ただ淡々と調理を続けた。
それにしても…。
彼が彼女を「叔母」呼ばわりするのは、一体どういうことなの
であろうか…?
「それに…」
そのときマーヤは手を止め、まな板に視線を落とした。
「もう身内のように振舞うなって…あれほど言ったじゃ
ないか」
叔母から放たれたその言葉に対し、ジャックは無言のまま
だった。
…実はマーヤは、ジャックを養子として迎え入れた、あの
グラント家の身内であった。
正確には、マーヤは後家となったラミィの姉である。
マーヤは莫大な遺産を手に入れた妹のおかげで、この店を
開くことができたのだ。
だが…開店から店はこれといって振るわず、ただ、毎日を
食べていくだけの稼ぎに留まっていた。
それに加えて、ここを訪れる客は皆、ある意味「まともな客」
などいやしない。
「天下の母親殺しが…こうやって堂々とその身内の前に
現れるなんて…あんたやっぱり頭がおかしいんじゃないの
かい?」
「そんなやつにカネをせびるあんたもあんただと思うがな」
ジャックが切り返すようにいう。
そんな自分にようやく向けられたマーヤの眼差しは、どこか
忌々し気だった。
それも当然であろう。
なにしろ、自分の姉を殺されたのだ。
そんな人間を、誰が暖かく迎え入れるであろうものか。
あくまでもそこにいるのは…「仇」である。
だがしかし…。
あのオナモに、ある意味実社会を体験させるためにここに
連れてやってきたのがジャックだったのだが…やはり人前で
己の裸をみせつけるという異常なその行為が、いまの世間と
いうものを知るための体験だというのは、あまりにも
酷過ぎる。
それにこれで報酬というものがないというのなら…それこそ
最悪だ。
「…で!?あの娘はどうしたんだい?そろそろ返してくれない
と、ウチは商売あがったりなんだよ!」
マーヤが冷たく言い放つ。
この店の目玉商品であり、看板娘のオナモ…またの名を、
「ステファニー」のことを尋ねた。
…だが、彼女はそこにはいない。
「悪いが彼女にはここを辞めてもらうことにした」
「…!?」
マーヤは手を止め、不可解な表情でジャックをみた。
「どういうことだい!?あんたまさか…この店を潰す気かい!?」
彼女は刃物を手に持ったまま、ジャックに迫った。
しばらくの沈黙の後、ジャックはポツリと答えた。
「ああ、そういうことだ。あんたも…もう居なくていい」
「ひっ…!」
ジャックは懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出し、それを
マーヤに向けた。
ボシュッ!
突然鈍い音がした。
気がつくと…マーヤはその額を撃ち抜かれていた。
このとき彼女の眼は力強く見開かれたままであった。
その最期の死に顔としては、あまりにも醜い…。
「何事もカネなんかで済まそうとするから…このオレも
頭がおかしくなっちまったのさ…」
そんなジャックの眼から、薄い涙の筋が頬を伝った。
そして…。
彼は傍にあった食用の油を辺りにまき、調理用の器具をすべて
作動させ、その場を後にした。
…やがて高温となった器具に油が引火、店は瞬く間に
燃え上がり炎に包まれた。
そして、大きな火災となった。
燃え上がるマーヤの店を背に、ジャックはどこへと伴く去って
いった…。
…その戦いが始まる少し前のことである。
ジャックはオナモが踊り子をしていた、あの酒場を訪れていた。
ところでいまは昼間なので店は閉まっている。
…だが、中ではカウンターの奥にある小さな厨房で、
小料理程度の仕込みをするこの店の女主人・マーヤの姿が
あった。
そんな彼女が、半ば腐りかけた野菜に手をかけたときで
あった。
「マーヤ叔母さん」
その場に突然現れたのはジャックだった。
「いきなり人の家に忍び込んで…本来なら不法侵入で警察を
呼ぶトコだよ」
マーヤはジャックに構わず、ただ淡々と調理を続けた。
それにしても…。
彼が彼女を「叔母」呼ばわりするのは、一体どういうことなの
であろうか…?
「それに…」
そのときマーヤは手を止め、まな板に視線を落とした。
「もう身内のように振舞うなって…あれほど言ったじゃ
ないか」
叔母から放たれたその言葉に対し、ジャックは無言のまま
だった。
…実はマーヤは、ジャックを養子として迎え入れた、あの
グラント家の身内であった。
正確には、マーヤは後家となったラミィの姉である。
マーヤは莫大な遺産を手に入れた妹のおかげで、この店を
開くことができたのだ。
だが…開店から店はこれといって振るわず、ただ、毎日を
食べていくだけの稼ぎに留まっていた。
それに加えて、ここを訪れる客は皆、ある意味「まともな客」
などいやしない。
「天下の母親殺しが…こうやって堂々とその身内の前に
現れるなんて…あんたやっぱり頭がおかしいんじゃないの
かい?」
「そんなやつにカネをせびるあんたもあんただと思うがな」
ジャックが切り返すようにいう。
そんな自分にようやく向けられたマーヤの眼差しは、どこか
忌々し気だった。
それも当然であろう。
なにしろ、自分の姉を殺されたのだ。
そんな人間を、誰が暖かく迎え入れるであろうものか。
あくまでもそこにいるのは…「仇」である。
だがしかし…。
あのオナモに、ある意味実社会を体験させるためにここに
連れてやってきたのがジャックだったのだが…やはり人前で
己の裸をみせつけるという異常なその行為が、いまの世間と
いうものを知るための体験だというのは、あまりにも
酷過ぎる。
それにこれで報酬というものがないというのなら…それこそ
最悪だ。
「…で!?あの娘はどうしたんだい?そろそろ返してくれない
と、ウチは商売あがったりなんだよ!」
マーヤが冷たく言い放つ。
この店の目玉商品であり、看板娘のオナモ…またの名を、
「ステファニー」のことを尋ねた。
…だが、彼女はそこにはいない。
「悪いが彼女にはここを辞めてもらうことにした」
「…!?」
マーヤは手を止め、不可解な表情でジャックをみた。
「どういうことだい!?あんたまさか…この店を潰す気かい!?」
彼女は刃物を手に持ったまま、ジャックに迫った。
しばらくの沈黙の後、ジャックはポツリと答えた。
「ああ、そういうことだ。あんたも…もう居なくていい」
「ひっ…!」
ジャックは懐からサイレンサー付きの拳銃を取り出し、それを
マーヤに向けた。
ボシュッ!
突然鈍い音がした。
気がつくと…マーヤはその額を撃ち抜かれていた。
このとき彼女の眼は力強く見開かれたままであった。
その最期の死に顔としては、あまりにも醜い…。
「何事もカネなんかで済まそうとするから…このオレも
頭がおかしくなっちまったのさ…」
そんなジャックの眼から、薄い涙の筋が頬を伝った。
そして…。
彼は傍にあった食用の油を辺りにまき、調理用の器具をすべて
作動させ、その場を後にした。
…やがて高温となった器具に油が引火、店は瞬く間に
燃え上がり炎に包まれた。
そして、大きな火災となった。
燃え上がるマーヤの店を背に、ジャックはどこへと伴く去って
いった…。
更新日:2020-10-17 08:53:03