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第6話 破壊されたダンタリオン
…そこはどこかの独房だった。
その壁は、この文明が進化した時代にしてはめずらしく
石造りだが、それは容易に人の手によって壊せるものでは
ない。
だが…そんな作りのためか内部はジメジメとした環境であり、
そこにはいつしか苔が生え、また、それに交じって黴が繁殖
するという劣悪な場所であった。
もっとも…奇跡的に毒虫などが生息しないのが不思議なの
だが…?
そんな独房に、一人の男が地べたに足を投げ出した姿勢で
座っていた。
上半身はその痩せた裸体をさらし、下半身は簡素な衣類を
まとっている…いや、もとはズボンの様だったが…それは
あちこち切り刻まれたように避け、その表面には幾つもの
茶色いシミができていた。
ちなみに靴などは履いておらず、こちらも薄汚れた裸足の
ままだった…。
「おいっ、餌だ!」
内部へのドアの下部にあるわずかな隙間から、トレイに
載せられた食事が投げ込まれるように差し出された。
冷めた何かのスープに、小さなパンのかけらだった。
そんな食事なら、いくら筋肉質の罪人とはいえ、ここから
脱走する体力など封じることは可能だろう。
いや…それ以前に十分な栄養も摂れず、自慢の筋肉も落ちて
しまうというものだ。
「ほんのひとかけらでもいい。たまには肉くらい出したら
どうだ…?」
鉄格子から射すわずかな光でその男の顔があらわになる。
金髪のウェーブがかった短髪。
年齢は幾らか老いており、その頬がこけ無精ひげは伸びたい
放題の面構えだ。
また、その顔には幾つもの擦り傷のようなものがあり、
まるで殴り合いのケンカでもしたかの様だった。
「フン!オレたちでもそんなモン、いまでも食ってねぇよ。
貴様みたいな身分で…これだけのメシが食えるだけでも
ありがたく思え!」
そう言い、食事を運んできた男はその場を後にした。
「確かにな…」
その男は鉄格子とその食事を交互にみやりながらふと思った。
それは、いつも運ばれてくるこの食事だ。
妙なことに冷めているとはいえ、そのスープは具材こそ入って
いないものの、どこか高級感がある風味豊かな味わいだ。
そして…そこに添えられたパンも、合成ものではなく、
ちゃんと麦の香ばしい香りがする。
つまり、どちらもこんな場所に入れられた罪人が食べる
食事ではないということだ。
「しかし…さすがにそろそろ飽きてきたな」
彼のさっきの言動が思い出される。
確かにそろそろ、肉か魚でも食べたいのが本心だったからだ。
その牢獄の男…ジェスタ・ボウフマンは苦笑しながら、
わずかな食事の時間を過ごすことにした。
…そこはどこかの独房だった。
その壁は、この文明が進化した時代にしてはめずらしく
石造りだが、それは容易に人の手によって壊せるものでは
ない。
だが…そんな作りのためか内部はジメジメとした環境であり、
そこにはいつしか苔が生え、また、それに交じって黴が繁殖
するという劣悪な場所であった。
もっとも…奇跡的に毒虫などが生息しないのが不思議なの
だが…?
そんな独房に、一人の男が地べたに足を投げ出した姿勢で
座っていた。
上半身はその痩せた裸体をさらし、下半身は簡素な衣類を
まとっている…いや、もとはズボンの様だったが…それは
あちこち切り刻まれたように避け、その表面には幾つもの
茶色いシミができていた。
ちなみに靴などは履いておらず、こちらも薄汚れた裸足の
ままだった…。
「おいっ、餌だ!」
内部へのドアの下部にあるわずかな隙間から、トレイに
載せられた食事が投げ込まれるように差し出された。
冷めた何かのスープに、小さなパンのかけらだった。
そんな食事なら、いくら筋肉質の罪人とはいえ、ここから
脱走する体力など封じることは可能だろう。
いや…それ以前に十分な栄養も摂れず、自慢の筋肉も落ちて
しまうというものだ。
「ほんのひとかけらでもいい。たまには肉くらい出したら
どうだ…?」
鉄格子から射すわずかな光でその男の顔があらわになる。
金髪のウェーブがかった短髪。
年齢は幾らか老いており、その頬がこけ無精ひげは伸びたい
放題の面構えだ。
また、その顔には幾つもの擦り傷のようなものがあり、
まるで殴り合いのケンカでもしたかの様だった。
「フン!オレたちでもそんなモン、いまでも食ってねぇよ。
貴様みたいな身分で…これだけのメシが食えるだけでも
ありがたく思え!」
そう言い、食事を運んできた男はその場を後にした。
「確かにな…」
その男は鉄格子とその食事を交互にみやりながらふと思った。
それは、いつも運ばれてくるこの食事だ。
妙なことに冷めているとはいえ、そのスープは具材こそ入って
いないものの、どこか高級感がある風味豊かな味わいだ。
そして…そこに添えられたパンも、合成ものではなく、
ちゃんと麦の香ばしい香りがする。
つまり、どちらもこんな場所に入れられた罪人が食べる
食事ではないということだ。
「しかし…さすがにそろそろ飽きてきたな」
彼のさっきの言動が思い出される。
確かにそろそろ、肉か魚でも食べたいのが本心だったからだ。
その牢獄の男…ジェスタ・ボウフマンは苦笑しながら、
わずかな食事の時間を過ごすことにした。
更新日:2020-10-06 08:38:28