• 42 / 118 ページ

第5話 ジャック・マーロウ


 …ミシェルが自分の意志で軍を除隊した事情は先の通りで
 ある。
 しかし…。
 当時モビルスーツのエースパイロットとして君臨し、その
 自らの才に溺れ、一時は奈落の底に堕ちかけたのも、また
 事実である。
 そして、かつてミシェルは…あの「ガンダムフレーム」と
 呼ばれる構造を持つ機体と対峙したこともあった。
 それは当時、ある場所から強奪されたその機体を奪還すべく
 出撃した時のことだ。
 また、この時出撃したその部隊は、腕利きの精鋭たちで
 結成された特別隊でもあった。
 その名は、「第33特殊任務班・MZ」と呼ばれた。
 このとき、その隊を率いる隊長が、実はミシェルの上司で
 あった、あのジェスタ・ボウフマンだった。

 …まだ開拓されていない、火星のとある地で、その戦いは
 始まった。
 相手はたった一体のガンダムフレームの構造を持つ機体
 だった…のだが、その個体名は特定されてはいなかった。
 おそらくそれには正式なその名があったのかもしれない。
 また、あの「ガンダム…」という名を冠する機体であったことも
 確かなことだ。
 …だが軍の記録によれば、あくまでも「ガンダムフレームの
 機体」…と、記されたされたままであった。

  「ふーむ…。まぁ70有余もの機体じゃからのう…簡単に
  特定するのはムズかしいじゃろうて…」

 ハッサンはそう言いながらタバコの煙を吐き出し、何気に
 虚空をみやる。

  「あんたはあの機体について、どれだけ知ってるんだ?」

 ふとミシェルがハッサン尋ねた。
 そのとき、めずらしくハッサンの顔が真顔になった。

  「昔儂がみたことのあるのは…あのダンタリオンと、
  もしくはそれに似通った数体の機体じゃったのう」

 ハッサンは傍にあった端末のキーボードを叩き、自分が作成
 しまとめたその情報をミシェルにみせた。
 そこに表示された機体のシルエットは、どれも実に特徴のある
 ものばかりだった。
 それは軍の主力モビルスーツ・グレイズに比べれば、流線形の
 フォルムを持ち、独特の形状をしている。
 いや、もっとも特徴的なのは、その頭部の作りであり、どれも
 人のように二つの目…いわゆる「ツインアイ」と呼ばれるそれを
 持っている。

  「ある機体は野蛮な戦士を髣髴させるような顔面を持ち、
  またある機体は四足動物のような変形機構を持っておったり、
  また…ある機体は威風堂々とした騎士のような姿をして
  おったものもある」

 その表示が拡大されては、また変わっていく。

  「じゃあダンタリオンは…?」

 今度はケイトスが尋ねる。

  「うむ。…まぁ大きな特徴としては、やはり女体のように
  細身でスマートである点じゃな。もっとも…古代ギリシャの
  ヴィーナス…とまではいかんが、その細身はある意味
  美しい」
  「…にしてはビッグフットだな。まさにデカい足の美女と
  いったところか」

 ミシェルが突っ込む様にいう。
 だがそれは、あくまでも冗談だ。

  「フフ、いいわね。足のデカい女性は好き?」

 ケイトスがミシェルを悪戯っぽい眼差しでみやり問いかける。

  「そうだな、アレをやっている最中に蹴られたら、宇宙の
  果てまでブッ飛びそうだ」

 一同に笑いが起こる。
 意外にも、ミシェルのその言動にはユーモアがある。

  「だけど…」

 ミシェルがキーボードに手を伸ばし、何かを操作する。
 すると…そこにはダンタリオンの本来の姿が映し出された。
 「ハーフカウルT」とかいう、巨大なユニットを背負った姿だ。

更新日:2020-09-29 09:48:22

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

鉄血のオルフェンズ創作/「赤牙」(「せきが」)