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 …もう随分と昔の話だ。
 そのシステムが、どんな名称だったのかは、誰にも
 判らない…。
 ただ…それを使用して、パイロットとモビルスーツがあたかも
 一体化するための道具であったことだけは事実だ。

 ときにコンピュータなどの電子機器、あるいはそれをさらに
 小型化したチップを人体に植え込み、何らかの操作を行う
 ことは、昔から実験や開発が行われていたといわれている。
 それは人の頭脳によって機械を制御する…これも早くから軍に
 よってその実験は進められていたのである。
 そして本来であれば、コンピュータなどの精密機器によって
 制御するはずのそれを、なんと人の頭脳など、その意思で
 直接制御することが具現化されたのだ。
 それが…例のシステムだということである。

  「このシステムのために…年端もいかない多くの子供たちが
  犠牲になったといわれておる…」

 ハッサンが淋しげに呟く。
 そのシステムそのものに順応させるには、思春期を迎えた頃の
 若者…いわば、十代そこらの少年少女が妥当といわれていた。
 …だが、それだけではない。
 その身体に何度も手術を施し、結果…脊髄に直接システム
 接続用のプラグを植え込むという、実に痛々しいもので
 あった…。
 勿論、その手術に失敗すると…最低でも、その四肢が
 まったくいうことを効かなくなる…いわば、全身が不自由に
 なってもおかしくはない…ともいわれていた。

  「こいつの実験のために多くの子供たちが犠牲になったと
  きいた。…気の毒にな」

 ミシェルが大きくため息をつき、触れていた手を離した。
 …と、ここで彼は何かに気づく。
 それは…。

  「そういやあんたは…いや、あんたも軍の関係者だったの
  か…?」

 昨晩聴いたジェスタのメッセージが思い出される。
 そして、その中で「戦友」という言葉が気にかかった。

  「まぁな。…儂は当時、軍でモビルスーツをいじっておった」

 …ということはメカニックか、或いは…技師か何かということ
 だ。

  「ちょっと待て。…だったらこのシステムのことを知ってる
  はずだろう?」

 彼の問いにハッサンは無言だった。
 …そのとき、ミシェルの脳裏に、かねてからこのシステムに
 ついて聞いた「ある噂」が思い出される。
 それは…軍の内部で行われた、このシステムの開発実験の
 ために、その研究開発が始まった当時、まずは己の身内を
 被験者として差し出すよう指示が出された…といわれていた。
 つまり、自分の身内の中に該当する年齢の子供がいたら、
 真っ先に被験者として差し出せということだ。

  「あんたまさか…自分の身内を差し出したりしなかった
  だろうな…?」

 ミシェルのその何気ない質問がハッサンの胸を刺す。

  「実はの…儂は自分の身内の孫娘を差し出した」

 ハッサンの顔は苦悩に満ちていた。
 …いや、後悔というべきか。

  「…なぜだ?」

 いつしかミシェルの表情が険しくなる。
 彼のこの上ない凝視の眼差しが、ハッサンを捉えた。

  「命令じゃったからやむを得んかった。いまでも後悔
  しとるよ」
  「ほざけッ!」

 突然ミシェルはハッサンのシャツの襟元を掴んだ。
 慌てて傍にいたケイトスが二人に割り込んだ。

  「やめてミシェル!!…当時は仕方なかったのよ!そうしないと
  ハッサンも私のお父さんの様に…追われる身になったかも
  しれない」

 普通なら孫とはいえ、老齢からみれば目に入れても痛くない
 ほど可愛い存在のはずだ。
 だが…ハッサンはそんな軍の理不尽な命令に素直に従った
 のだ。
 …と、ここでミシェルがさらに何かに気づく。

  「ハッサン。まさか…このガラクタは…」

 ハッサンは背後へと振り向き、がくりとその首を垂れた。
 そして、震える声で答えた。


更新日:2020-07-05 07:09:00

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