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小説

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暗転パレエド2

コンコン

数日たったある日のお昼過ぎ、俺の202号室のドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けると、そこには水端葵が立っていた。
顔色がさえない。ひどく落ち込んで悄然としている。
いつもの明るい様子は見られない。
頬が少しだけ赤く腫れている。

「沢村さん、実はお別れの挨拶に来ました」
暗く平坦な声のトーン。感情が感じられない。
「え?」
「私、これから引っ越す事になりました」
「今すぐ?これから?」
「…はい」
「そっか、ずい分急だな」
「…」

葵の口数は少なかった。
何かを言いたげな様子ではあったけれど、言えずに言葉をかみ殺しているようだった。

「今までお世話になりました。沢村さんの事、決して忘れません」
「…お前、頬が腫れてるけど、どうしたんだよ?」
ハッとした顔をした葵は目線を下げて頬を押さえる。

「これは…」
「?」
「いえ、これは転んで…そそっかしいですから、私」
「…」
「では、これで失礼します」

パタンと扉は閉められる。

あっさりしたもんだ。
こんなもんなのかな…まあ隣に住んでいるだけで、何の関係も無い他人だもんな。
騒々しい奴がいなくなったもんだ。…それだけの事だよ。

何かしら複雑な事情もありそうだったけど、もっと踏み込んで聞くべきだっただろうか?
いやいや、向こうの方から言ってこない以上は関わるべきではないよな。
それこそお節介だし、関わった所で責任なんて、とても取れないよ。

そう思って部屋の中に戻るとすぐに、またコンコンとドアをノックする音が聞こえた。
ありゃ、また葵かな?何て思ってドアを開けると、そこには見知らぬ男が立っていた。

「君が沢村君かい?」
40代半ばぐらいの無精ひげを生やした体格のいい男。
短髪で印象としては熊のようなやつだ。
口元には笑みを浮かべていたが、目は笑っておらず、俺の部屋を一べつすると、フンと鼻を鳴らした。

「…誰ですか?」
「青山です。今までうちの娘に良くしてくれたようだね、礼を言うよ」
「はあ」
ああ、真弓さんの再婚相手の人か…











更新日:2020-08-04 22:30:00