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通りの向こうを見て「ああ…」と思った。
制服姿の女子生徒2人が楽しそうに会話をしながら近付いてくる。
この近くの中学校の制服だった。
おそらく葵の同級生なのだろう。
葵は俺の後ろで小さくなっていた。
心なし震えているように思えた。

会話に夢中な女の子達は俺たちに見向きをする事も無く、そのまま通り過ぎていった。
「もう行ったぞ」と声を掛けると、葵は俺の背後からでてきた。
そしてきまりが悪そうな表情で「あはは…」と力無く笑った。

「何だよ…クラスメートか?」と俺が聞くと「はい」と答えた。
「まあ…あまり会いたくないと言いますか…」
「気にしすぎじゃないか?みんな忙しいし、お前のことなんて気にしてね〜よ」
「…そうでしょうか?」
「ああ、そんなもんだよ…多分」
「どうも、私は空気が読めないタイプの人のようでして…」

葵は自信なさげに卑屈なテレ笑いをしながらそう言った。
(うん、そうだよね)と一瞬思ったが、言わなかった。
「読まなくていいんだ」代わりに俺はそう言った。
「学校なんて他人の集まりだ。高校や社会にでたら、ほとんどはもう会ったりはしない。合わせる必要なんてないし、友達なんてのも必要ないんだ」
「そう…なのかもしれません」
「だから…他人の目なんて気にするな」
「このままではいけないのは…わかってはいるのです」
「…そうか」

「あの…沢村さん」
「何だよ?」
「応援してくれますか?…こんな私でも」
「ああ、応援する。隣部屋のよしみだからな」

そう答えると、葵は「へへっ」と笑い、俺の背後から嬉しそうに抱きついてきた。
「さっわむっらさ〜ん!」

ぼいんと大きな胸のやわらかい感触が俺の背中を圧迫するのを感じた。
風呂上がりの、まだ乾ききってない髪からシャンプーとセッケンの香りがする。
そして抱きつきながら葵は俺にだけ聞こえるような小さな声でささやいた。


「沢村お兄さん…って呼んでも…いいですか?」











更新日:2020-06-25 10:34:52

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