官能小説

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>MIRIO


BLUE ROSE


「さて、と。」

さよならショーの振り付けの確認をしていると、遅くなってしまった。

いつも、そう。

納得いくまで、と思っていると時間を忘れてしまう。


「あちゃ。また気を遣わせちゃったかな。」


お稽古場の入り口には、「お疲れ様」と書かれたメモと一緒に鍵が置かれていた。


消灯時間はとっくに過ぎているのに、そっとしておいてくれたんだろう。


「いつも、ありがとうございます。」


こっそり見逃してくれている守衛さんに心の中で手を合わせて、施錠する。


「・・・あれ?」


真っ暗な廊下の先から、微かにピアノの音が聞こえてくる。


「まだ、誰かいるのかな?」


なんとなく。

ドキドキする。

予感。気配。繋がり。


一歩進むごとに、胸の高鳴りが大きくなる。


「・・・やっぱり。」


防音ルームの小さなのぞき窓から覗くと、ピアノを弾いているれいちゃんの背中があった。

真っ暗な部屋で、月明りだけを頼りに、瞳を閉じて自分の内面と語りあっているようなれいちゃん。

何度かみかけたことのある光景。


「目を閉じたまま弾けるって凄いよね。」って言ったら、

「身体が覚えている曲しか弾かないだけです。自然に指が動くというか。」って言ってた。


「楽譜も見てないしね。」

「あー・・・ほんとはちゃんと解釈しないといけないんでしょうけどね。考え事しながら弾いてるので。ものすごくいい加減になってると思うので聞かないでくださいねっ。恥ずかしいですから。」

と、言われてからは、密かに、こっそりと楽しむことにしている。


私はピアノを専攻したことはないから、深い技巧的なことはわからないけど、れいちゃんの感情というか、その時の波のようなものを感じることができて、好きなの。


今日の音色は・・・美しすぎて、哀しい。


明るく強い輝きで周囲を照らす太陽神アポロンのようなれいちゃんだけど。

ピアノと向き合っている時は、静かに清楚な光を放つアルテミスのようだ。


「あれ・・・涙?」


月明りに照らされた頬が、きらりと光る。

時折不安定に音色が乱れる。

れいちゃんの肩が小刻みに揺れ、不協和音が響く。


「・・・っ!」


いつまでも守れるわけじゃない。ちゃんと背中を押さなくちゃいけないのに。

堪え切れなくなって、れいちゃんの背中をぎゅっと抱きしめた。


「・・・さゆみ、さん?」

「・・・大丈夫。聞いてない。」


れいちゃんがピアノの音を聞かれたくないのは、下手だから、じゃない。

自分の内面を曝け出すのが苦手、だからだ。


「・・・はい。」


私の腕をぎゅっと抱きしめると、堰をきったように次々と涙がこぼれた。


「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ?柚香さんだよ?信じてるもん。」

更新日:2020-05-31 15:45:47

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