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シャラの木の夢 5

義則も妻の沙羅の余命わずかということを知っていたので、入院中の沙羅の母には精神的にも負担をかけたくなかったので言わずにいた。

治療室で沙羅の側に居ることもできず、病院の待合室の隅で一人泣く義則は、沙羅の名前が憎らしく思えていた。

『お釈迦様よぉ…苦労や病なんて誰にもあるっていうけどよ…沙羅にはもう幸せも無いのかよ!子供ができなくて悩んで…病気も治らないなんて…そんなのアリかよ!あいつ、まだ35だぞ…何とかしてくれよ…お釈迦様よぉ…』

義則は、この時ばかりは藁にもすがる思いだった。

しかし…義則のそんな思いも届かず、それから5日後に沙羅は静かに息をひきとった。


そんな当時を思いだし、義則は沙羅との想い出を辿っていた。

そして、沙羅の最後の手紙に残された十年という言葉の続きを想像していた。

更新日:2020-05-08 06:40:30

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