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シャラの木の夢 4

『俺と沙羅が知り合った歳が28才、沙羅が他界して仏になったのが35才、俺の歳が45才、そして沙羅の名前の由来…』

そんなことを思った義則だったが、頭を左右に振りながら考えすぎだろう…偶然の一致だ…。

とは思いつつも、やはり気になる義則。

コップに一輪挿しのナツツバキをサイドボードの上にある沙羅の写真の横に置いた。

その時、義則は沙羅の写真の裏に沙羅が亡くなる前に義則へ書いた手紙の事を思い出した。

義則は久しぶりに手紙を見たくなり小さな写真のフレームを外し写真の裏にある手紙を取り出して広げた。

その手紙は、余命少ない中で調子の良いときに義則宛に書いた手紙だった。

その手紙を書いた日の夕方近くなって病状が悪化して、意識も戻らず5日後に沙羅は35才の若さで旅立った。

手紙の内容は子供ができなかったこと、楽しかった想い出、ご飯を作ることも洗濯もできなくなったことを義則に謝っている内容だった。

生前、沙羅は不妊症で悩んでいた。

その都度、義則は気遣う言葉をかけては沙羅を元気付けていた。

そして最後に、義則を幸せにできなくなったことを知っていた沙羅は、義則に新しい彼女ができることを願う内容が書かれていて、十年…、と書かれたところで途中で途切れていた。

寝たきりのままで最後まで書けなかった文字が当時の沙羅の辛さを物語っていた。

義則が沙羅の手紙を看護士から受け取ったのが、沙羅が手紙を書いたその日の夜だった。

仕事を早めに終えても病院に着いたのは夜の6時を回っていた。

既に沙羅は病室を出て集中治療室へと移されていた。

沙羅には病気で入院中の母親がいた。父親は既に他界していた。

そんな状況で沙羅は、母には入院していることを言わないでほしい、と言われていた義則だった。

更新日:2020-05-08 06:40:15

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