• 1 / 3 ページ

昭和の初期に戻りたい

挿絵 699*494

次郎「昔の日本てそんなによかったのかい、爺ちゃん?」
傑(すぐる)「勿論だ。」
次「へー、どんな点でよかったの?」
傑「あー、こんなせせこましい、やかましい、せからしい令和なんて、まったくなんて時代だ!」
きゆ(母)「ホンマにそうよ。物価は高いし、消費税は増えたし、無税の時代の方がよかったわよ。」
一夫(兄)「どうかな?現代がそんなに悪いか?道路だってスムーズだし、鉄道は正確に運行してるし、蠅や蚊だっていなくなってる。そのどこが悪いの?」
ルイ子「ちょっと兄ちゃんら、静かにしてよ。」
次「なんで?」
ル「少女漫画のアニメやってんねんから。唯一の楽しみなんよ、私にとっては。」
き「少女漫画ちゅうたら、昭和24年にあんみつ姫があったわ。でもな、もうその頃は戦後の復興で忙しくて、全然見てないわ。」
傑「あ、そや、サザエさんも昭和21年頃から雑誌掲載やった。」
次「え?爺ちゃん何で知ってるの?」
傑「日本は戦争負けたやろ?ほな、軍需産業で働いとったわしは、即解雇されたんや。
ところが、うちの兄貴が国鉄の職員やったから、駅の売店の仕事についたんや。そこで洋雑誌やら売ってたから、サザエさんも知ってるねん。人気あったでー。」
一夫「んな事言って、ホンマはお客さん来たら『また来あがった』ってぼやいてたそうやないか?国鉄のおっちゃんがぼやいてたで(笑)」
次「昭和の初期の事めっちゃ興味あるわ。何か本でも読んだ方がええかな?」
き「映画かてあるやん。昭和初期ってどんな映画があるかな?」
ゆ(おとん)「お、帰ったぞ」
みんな「おかえりー。」
ゆ「何の話しとんねん?」
き「お、映画好きが帰ってきた。(笑)、あんた、昔の映画の話して―な。」
ゆ「黒澤明か?」
き「いやいや、それよりもっと前。戦前」
ゆ「ほな、活動写真、無声映画か?それやったらお前の方が詳しいやろ?」
き「どんなんかな?うちの母ちゃん(つまり亡き婆ちゃん)も映画好きやってな。大阪都島で「愛染かつら」とか坂本武と飯田蝶子のも人気あったわ。」
ゆ「そうかー。わしあんまり覚えてないわ。親がそういうとこ行かさんかったし。」
傑「コメディアンでもおもしろいのあった。『あーのね、おっさん、わしゃ、かーなわんよ』とかいうのもな。高勢 實乘(たかせ みのるや。」
ル「そんなん面白いの??全然面白くないわ。」
一「今何見てるねん」
ル「キャンディ・キャンディやん。」
一「まああれもアメリカの話やしな。戦後の日本はすっかりアメリカナイズされたからな。」
傑「よっし、次郎よ、これからわしが昭和初期の日本に連れて行ったろか?」
次郎「え?ホント?行けるの?」
傑「もちろんさー。」
きゆ「またお爺ちゃん、子供に変な事言わんとって。」
傑「まあ、見てな。次郎よ、お爺ちゃんが一つでっかい冒険をさせてやろう。付いて来い。」
ゆ「お義父さん、もう9時でっせ。危ないし。」
次「いや、僕行きたい。」
傑「よし、付いて来い。」
ーーー
二人は出かけた。しかし、他の家族も大反対する程でもなかった。
二人は、少し山になってるとこに向かって歩いた。次郎は懐中電灯を照らした。
次「爺ちゃん、これ、古墳のある当たりじゃん。防空壕の跡とかとも言われるし。大丈夫なの?」
傑「大丈夫。この防空壕のこちら側が戦後の世界、中側が戦前の世界なんじゃ。」
次「それじゃあ、この穴の中に入って行こう。」
二人は段々と入って行った。最初は真っ暗で何もないように見えた。しかし、更に進んでいくと、段々灯りが見えてきた。
その灯りを目指していくと、古い昔の街灯が見えて、路面電車がゆーっくり移動している。歩いてる人はハイカラで、とてもお洒落だ。帽子を被った紳士、シルクハットの女性!
傑「見ろ、これが昭和初期の世界だ。夜景じゃよ。」
次「すごいー。車の数もほとんどない。たまに馬車も走っているよ。街灯の灯りもそんなに明るくない。とてものんびりしている。現代のせからしい、うるさい世界とはエライ違いだね。」
二人は街路をゆっくり周りを見回しながら進んだ。左手を見ていくと、写真がたくさん並んでるお店みたいなのがある。
次「これ何?写真館?女の人ばっかりだよ。」
傑「これはな、遊郭っちゅうんじゃ。」
次「ユーカク?」
傑「つまり、男と女が色恋をして楽しむところじゃよ。」
次「うわぁ、それええやん。早速行こう!」
傑「あかんて。ここは、未成年禁止や。」
次「ちぇっ、行きてえなあ。」
傑「わしだけ行ってくる」
次「あかんてー、爺ちゃん!」

更新日:2020-04-13 20:48:44

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook