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看病って難しい
信じられないほど、額が熱い。
「な、なに、これ?風邪?風邪かな?」
始業時刻になっても教室に来ない担任を迎えに、ルナとカイはアカデミーの教員寮棟にある、アーク・ノウルの部屋に乗り込んでいた。そこにはぐったりとした様子のアークが、ガタガタと震えながらベッドで寝込んでいた。
昨夜、寒空を超高速で飛び回った上、池に突き落とした覚えがあるルナは、真っ青になった。
「ねぇカイ、病院つれていってあげたほうがいいかなっ?」
「魔法病院に連れていったところで効果があると思っているのですか?」
カイは比較的冷静に、意外と片付いている部屋を物色している。
「そ、そっか、魔法効かないんだっけ。」
「これが薬ですか・・・・・・一応飲んだ形跡がありますね。」
カイはテーブルに置かれた瓶を振って肩をすくめた。病気や怪我に対し、医者が殆どの治療を魔法で行うオラクル国だが、中にはアークほどではなくとも魔法が効きにくかったり、魔法を嫌って薬を好む者も居るため、薬がないわけではない。しかし、需要の低下に伴い、その価値は高く、入手もかなり困難だが、研究機関を併設しているゾンネ・フェルトでは比較的手にしやすい。
「でもでも、飲んだならどうして治ってないの?」
「薬というのは・・・・・・ものにもよりますが、確か、魔法のように即効性がなかったような気がしますね。」
「じゃあどうするの?」
「この様子では今日の授業は無理でしょう。」
「そんなことじゃないもん!アークがすごくつらそうじゃない・・・・・・」
苦しそうな息を繰り返すアーク。
「理論上、体に入った菌を殺すために必要だから発熱するのです。放置が最良かと。」
「だけど、何かしてあげなくちゃ。カイ、あなた、薬草学の本持ってたじゃない!何か体にいいもの作りなさいよ!あんた頭いいんでしょ。」
ルナの提案に、カイは目を丸くする。
「・・・・・・やってみてもいいですが、ルナを残して大丈夫でしょうか?」
「任せて!あたしもすぐに元気になるスタミナ料理を作ってあげるわ!」
ふたりは一旦部屋を出、カイは薬草学の本を手に菜園へ、ルナはまだ準備中の食堂から、目に付いた材料を持てるだけ失敬してアークの部屋へ戻った。
ええと、スタミナ料理・・・・・・辛くて、こってりした、重い感じの、肉肉しいやつがいいかな?元気出るよね!あたしも辛いの好きだし。
テーブルに置いた材料を見据え、ルナは集中して杖を一振りし、頭にイメージした料理を出現させた。
もわ~ん・・・・・・もわわわわ~ん・・・・・・と、スパイスの入り混じる匂いが部屋を満たす。ルナは使命感に燃え、高熱に震えるアークの上半身を抱き起こした。
「ほら、アーク!食べなくちゃ元気が出ないんだから!」
意識が朦朧としているアークの口を開けさせ、香辛料で真っ赤に染まった肉を突っ込む。
「むぐ・・・・・・う・・・・・・ぷ・・・・・・ぐ、ぐええええ」
「ええっ、は、吐いちゃった!どうしよう?食べられないの?」
肉を吐き出してしまったアークの口元を拭いてやり、とりあえず食事をテーブルに戻す。熱で赤かったアークの顔は土気色に変色しており、再び額に触れると、先ほどよりも熱い。ルナは焦った。
「えーっとえーと!熱が出てたら、冷やさなきゃ!水、むしろ氷!」
ルナが叫ぶと、アークの真上に氷の塊が降り注ぐ。
「うーんうーんなんだか重い・・・・・・とても冷たい・・・・・・」
アークのうめき声にルナが慌てふためく。
「やだっ体まで冷やしちゃ駄目じゃない!えーと、炎?!」
ぼひゅぅううう!
アークのベッドが燃え上がる。
「うーんうーんなんだか何も着てないみたいに寒い・・・・・・」
「きゃあああ!」
「どうした?!」
そこにベマゼクが現れた。カイが菜園に向かう前に助けを呼んだのだ。ベマゼクが足を踏み入れたその部屋では、スタミナ料理がきつい匂いを漂わせ、氷が散乱し、・・・・・・アークは燃え散って骨組みだけになってしまったベッドで悲しそうに寝ている。寝巻きも燃えてしまい、ほぼ全裸だ。奇跡的に、布の破片が股間を隠している。
「・・・・・・ギレンホール、君がこんなふうに男性の寝こみを襲う女性だとは思わなかったよ。」
ベマゼクの冷たい微笑に、ルナは両手を振り回して弁解を試みる。
「そういうのではなくってですね!」
「はい、言い訳している場合じゃないだろう。僕が適当に服を着せておくから、その間に水に浸した布でも持ってきなさい。いくら毎回魔法で病気を治すといっても、病院に行くまでの間に、それくらいのことをする知識はあるだろう。」
見下したような口ぶりにむっとしたが、アークの苦しそうな唸り声が耳に入り、ルナは慌てて洗面器と布を探し、部屋を飛び出していった。
信じられないほど、額が熱い。
「な、なに、これ?風邪?風邪かな?」
始業時刻になっても教室に来ない担任を迎えに、ルナとカイはアカデミーの教員寮棟にある、アーク・ノウルの部屋に乗り込んでいた。そこにはぐったりとした様子のアークが、ガタガタと震えながらベッドで寝込んでいた。
昨夜、寒空を超高速で飛び回った上、池に突き落とした覚えがあるルナは、真っ青になった。
「ねぇカイ、病院つれていってあげたほうがいいかなっ?」
「魔法病院に連れていったところで効果があると思っているのですか?」
カイは比較的冷静に、意外と片付いている部屋を物色している。
「そ、そっか、魔法効かないんだっけ。」
「これが薬ですか・・・・・・一応飲んだ形跡がありますね。」
カイはテーブルに置かれた瓶を振って肩をすくめた。病気や怪我に対し、医者が殆どの治療を魔法で行うオラクル国だが、中にはアークほどではなくとも魔法が効きにくかったり、魔法を嫌って薬を好む者も居るため、薬がないわけではない。しかし、需要の低下に伴い、その価値は高く、入手もかなり困難だが、研究機関を併設しているゾンネ・フェルトでは比較的手にしやすい。
「でもでも、飲んだならどうして治ってないの?」
「薬というのは・・・・・・ものにもよりますが、確か、魔法のように即効性がなかったような気がしますね。」
「じゃあどうするの?」
「この様子では今日の授業は無理でしょう。」
「そんなことじゃないもん!アークがすごくつらそうじゃない・・・・・・」
苦しそうな息を繰り返すアーク。
「理論上、体に入った菌を殺すために必要だから発熱するのです。放置が最良かと。」
「だけど、何かしてあげなくちゃ。カイ、あなた、薬草学の本持ってたじゃない!何か体にいいもの作りなさいよ!あんた頭いいんでしょ。」
ルナの提案に、カイは目を丸くする。
「・・・・・・やってみてもいいですが、ルナを残して大丈夫でしょうか?」
「任せて!あたしもすぐに元気になるスタミナ料理を作ってあげるわ!」
ふたりは一旦部屋を出、カイは薬草学の本を手に菜園へ、ルナはまだ準備中の食堂から、目に付いた材料を持てるだけ失敬してアークの部屋へ戻った。
ええと、スタミナ料理・・・・・・辛くて、こってりした、重い感じの、肉肉しいやつがいいかな?元気出るよね!あたしも辛いの好きだし。
テーブルに置いた材料を見据え、ルナは集中して杖を一振りし、頭にイメージした料理を出現させた。
もわ~ん・・・・・・もわわわわ~ん・・・・・・と、スパイスの入り混じる匂いが部屋を満たす。ルナは使命感に燃え、高熱に震えるアークの上半身を抱き起こした。
「ほら、アーク!食べなくちゃ元気が出ないんだから!」
意識が朦朧としているアークの口を開けさせ、香辛料で真っ赤に染まった肉を突っ込む。
「むぐ・・・・・・う・・・・・・ぷ・・・・・・ぐ、ぐええええ」
「ええっ、は、吐いちゃった!どうしよう?食べられないの?」
肉を吐き出してしまったアークの口元を拭いてやり、とりあえず食事をテーブルに戻す。熱で赤かったアークの顔は土気色に変色しており、再び額に触れると、先ほどよりも熱い。ルナは焦った。
「えーっとえーと!熱が出てたら、冷やさなきゃ!水、むしろ氷!」
ルナが叫ぶと、アークの真上に氷の塊が降り注ぐ。
「うーんうーんなんだか重い・・・・・・とても冷たい・・・・・・」
アークのうめき声にルナが慌てふためく。
「やだっ体まで冷やしちゃ駄目じゃない!えーと、炎?!」
ぼひゅぅううう!
アークのベッドが燃え上がる。
「うーんうーんなんだか何も着てないみたいに寒い・・・・・・」
「きゃあああ!」
「どうした?!」
そこにベマゼクが現れた。カイが菜園に向かう前に助けを呼んだのだ。ベマゼクが足を踏み入れたその部屋では、スタミナ料理がきつい匂いを漂わせ、氷が散乱し、・・・・・・アークは燃え散って骨組みだけになってしまったベッドで悲しそうに寝ている。寝巻きも燃えてしまい、ほぼ全裸だ。奇跡的に、布の破片が股間を隠している。
「・・・・・・ギレンホール、君がこんなふうに男性の寝こみを襲う女性だとは思わなかったよ。」
ベマゼクの冷たい微笑に、ルナは両手を振り回して弁解を試みる。
「そういうのではなくってですね!」
「はい、言い訳している場合じゃないだろう。僕が適当に服を着せておくから、その間に水に浸した布でも持ってきなさい。いくら毎回魔法で病気を治すといっても、病院に行くまでの間に、それくらいのことをする知識はあるだろう。」
見下したような口ぶりにむっとしたが、アークの苦しそうな唸り声が耳に入り、ルナは慌てて洗面器と布を探し、部屋を飛び出していった。
更新日:2020-03-15 15:19:06