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 厳格なる檻であることを正義と呼び、フラフラと彷徨う刃であることを悪と呼ぶ。
 刃は人を傷つけるためにあり、檻はその刃を折る為にある。
 14歳の彼はその理論に則ると、極めて純粋な悪であった。
 その舌は、他人を傷つけることを得意としていた。
 的確にひとのコンプレックスを見抜き、理論を聞けば足を掬うことばかり考えた。
 ある日、彼は同級生達に囲まれ、殴られ、蹴られた。
 彼はこの状況に置かれる意味が分らなかった。檻が刃を折ったというだけなのだが、如何せん、彼には檻が全く見えていなかったのである。
 暫くはそのまま刃を乱暴に振り続けたが、檻は容赦なく彼を痛めつけていく。そうした日々を経て、彼は冷たい鉄格子の輪郭をやっと掴むことが出来た。
 身を守る術を欲したが故に、ようやく掴めたのだ。
 彼はその檻の中に、自らを閉じ込めた。格子には決して近づかないようにして、大人しくした。
 そうすると、たしかに誰も彼を傷つけなくなったが、如何せん、外から檻の中の人たちをなじる声がひそひそと聞こえてくる。
 募りに募った苛立ちによって感情を爆発させた彼は、遂に同じ檻の中の人間をナイフで傷つけた。23歳の時だった。
 たちまち新しい檻が目前で形成され、あっという間に大勢の人間に囲まれて、殴られ、蹴られた。
 ボロボロになり、広い檻の中を朦朧としながら彼は彷徨い歩いた。
 もう駄目だと、崩れ落ちた彼の頭に1羽のカナリアが止まった。
 聞いたことのない美しい囀りに、彼は一瞬で虜になった。
 彼は持っていたナイフを溶かして、鳥かごを作った。
 そこにカナリアを入れ、彼はそれを大事そうに抱え、檻の中を歩いた。
 彼の身を守る武器はない。しかし、彼はカナリアを傷つける者がいたら、身を挺し危機から救うのだと心に決めたのだ。

更新日:2020-02-11 06:39:13

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