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本編

 また君に会う日まで

 1

『悲しいことや挫けそうになったら、遠くに向かって僕の名前を呼んでください。必ず君の元へ行きます』

 それは遠い昔に彼が言ってくれた約束の言葉だった。
 この世界で冒険を始めた頃からずっと一緒にいて、同じ景色を見て、同じ時間を過ごし、どんな時でも彼はそばにいてくれた。
『僕は君の影だ。常に君と共にいます』
 彼の存在は私の支えになり、これから先もずっと一緒だと思っていた。でも……。
「暗黒さん、スタンス入れたままだから、火力出てないですよぉ~」
「暗黒さん、ギミック大丈夫ですか?」
「暗黒さん、挑発遅いです」
「今のは暗黒さんが散開出来てないですからねぇ」
「暗黒さん、もっと真ん中にボス誘導してください」
 次々と降りかかる言葉の暴力。八人でパーティを組んで突入する零式というコンテンツで、私は思い知った。もちろん、どんなギミックが来るのか楽しみだから、あまり予習せずに新鮮な気持ちで挑んでいた私にも責任はある。メインのストーリーを楽しんでいる時とは違う。みんな、あのボスを倒したい、何が何でもクリアしたい。だから、他の人のミスが目についてしまうのだ。高難易度コンテンツに潜ればよくあることだった。でも、あの時の私は何も知らなくて心に深い傷を負った。そして、その日を境に彼の声は聞こえなくなった。
「聞こえない。聞こえないよ……あなたの声。どこ? どこにいるの!?」
 彼は私の前から姿を消した。どれだけ呼んでも彼の返事は来ない。頭が真っ白になった。
 私は一人ぼっちになってしまった。そのショックが大きくて、私は声を出すこともできなくなってしまった。

更新日:2020-02-03 21:19:13

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