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ステーション起動(承前)3

ジョン・フランツだ。コマンダーシートに座って腕を組んでいる。
「・・うん・・何か、見落としがあるような気がしたんだが・・やっぱり何も無いね・・」
「・・不安があるんですか?・・大丈夫ですよ。計画は今のところ順調で、スケジュールにもシステムにも問題はありません。バックアップの体制も充分ですから、寝みましょう」
ティナ・ヒートンだ。少し離れたスタッフシートに座っている。
その声は労りが主成分ではあったが、見透かすような、探るような響きもあった。
「・・ああ、もう寝むよ・・・しかし不思議なものだね・・いよいよと言う時が近付くと、どう言う訳か以前の事が思い出されるものなんだね・・・・」
「・・何を後悔しているのですか?・・・」
河邨 義之だ。左後ろの壁にもたれて腕を組んでいる。
「・・何も後悔などしていないよ・・・もしもの話に意味は無いからね・・ただ、思い出しているだけだよ・・・それじゃあ、軽く何か食べてから寝るか・・一緒にどう?・・」
「行きますよ・・実は皆であなたを迎えに来たんですよ・・ラウンジで軽く1杯呑りましょう・・・」
「良いね・・ああ、最後に一つだけ・・ターミナル1とターミナル2はどうしてる?・・」
「3時間ほど前からサイレントモードに入って沈黙しています。予定通り、こちらがフェイズ1を乗り切るまで連絡は禁止です」
「嗅ぎ廻っているだろうな・・・」
「最後の連絡の中で、原潜と哨戒機のパトロール頻度が25%上昇したそうです。向こうもピリピリしてますね」
芳邨が立ち上がって上着の裾を引っ張りながら言った。
「彼らの眼を逸らすためにも明日のイベントは重要ですね・・」言いながら歩きだす。
話していた全員でターボ・リフトに乗り込んだ。誰かがラウンジのあるレベルを告げる。
殆ど人のいないラウンジで、カウンターに近い大きいテーブル席に陣取った。
「全員、優しい夜食のタイプA2、それとライトビールをグラスで・・」
テーブルに来たウェイターに高野が開口一番で告げる。誰も何も言わなかった。
「やまとに付いているのはシードラゴン?・・」と、ジョン。
「うん、ポセイドンとネプチューンだね・・・あとは距離を置いてMLHMの2と3が追尾しているよ・・」
先にライトビールが来たので、全員で軽くグラスを掲げた。
「海江田艦長と言う人は、どこまで知っているんでしょう?・・」
ティナだ。欠伸を噛み殺した。
「具体的には、まだ何も知らない筈だ・・・だが、我々のプレッシャーは感じているようだね・・・」
「!・・ニュータイプ?・・」
「・・・そう言っても、別に差し支えは無いだろうね・・現時点では・・」
「・・彼は海を起点として・・・我々は宇宙(そら)を起点として、同じ目的地を目指している・・・」
食事も運ばれて来たので、皆、思い思いに手を付け始めている。
暫らくして手を止めると、独りごちるように言ってみる。
「サマリタンを開放したジョン・グリアも、世界を一つにしようとした、と言う点に於いてだけは、同じなのかな・・・・?・・」
「手法は全く受け容れられないし、最優先すべき対象も完全に履き違えている・・・全く問題外ですね・・・・・」
高野が夜食の残りをかき込みながら言った。
それから皆が食べ終わるまで、誰も話さなかった。
グラスを干して口を拭うと皆の顔を見渡す・・・疲れが見えるし、眠そうだ。
「よしっ・・じゃあ引き揚げよう・・シャワー浴びて寝るよ・・集合時間でよろしく・・」
そう言って席を立った。皆も同じように続く。
自分の個室に戻ると軽くシャワーを浴びてタンクベッドに入った。
このタンクベッドは最新型で、この中で3時間眠れば10時間の熟睡と同じ効果が得られる。
私はこの中で3時間と30分を過ごし、起きてタンクから出ると、改めてシャワーを浴びて身なりを整え、コーヒーを飲みながら私専用のパッドで最終のチェックを進めた。

更新日:2020-01-20 22:30:57

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