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シルバーピープルと巫女

 奴と戦う前に私は荒れ狂う『コスモス』の海にて或る存在と会話をする。

「寒イ」

「我慢して、ゴースト。あの馬鹿は確かに此の辺りに飛び込んだ筈!」

「死ンダノガ正シイノデハナイカ? タイタニックノ悲劇ヲ考エレバ其レガ妥当ダ」

「訳わからん事を口にしないでよ、全く」

「其レニ何故其処迄シテアレヲ探ス? 殺シタイカ?」

「勇者に相応しくないの。こんな事で死んだりしたら絶対に許さない!」

 あの男は勇者を侮辱したのよ。誰が如何見ようともあいつは確かに逃げて行った。偶々みんなの眼には生贄に成るだけの自己犠牲精神に溢れている。でも私にはわかる、あいつは勇者の名を利用して其の場から逃げたの……兄さんが命を懸けて振舞って来た勇者の姿勢を否定したの、絶対に許さない!

「トハ言エヤハリ寒イ」

「文句言わないの、命懸けなのは戦士として当たり前でしょ。其れとも未だ自分を追い出したコミュニティに戻りたいの……此の臆病者!」

「アレハ誤解ダ。自分ハ偶々其ノ現場ニ居合ワセタダケダ。其レデ巣カラ追放サレタノガ腹立タシクテ仕方ナイ」

「へえ、ゴーストにも怒りや苛立ちは在るのね」

「自分達ヲ只ノ人間擬キト勘違イシテナイカ? 怒ル時モ泣ク時モ在ル。確カ善良ナジュラル星人ガ言ッテタンダ」

「だから訳わからない話をしないでって……飛び込む前だって『甘利神拳ノ存在ヲ最後迄信ジテ入水シタダイブノ生キ様ヲ忘レナイ』とか言ってたでしょ? 如何ゆう思考をすればそんな創作話が浮かぶの? 其れがシルバーピープルの思考回路なの?」

「疑問文ガ三ツモ並ンデイルゾ」

「ウググ……」此奴とは兄さんが死んだ後からずっと一緒だけど未だに機械人形と話した気がして馴れないの--所詮は人間のふりをして生きている擬き……私達が居た世界と同じく人の気持ちなんて此れっぽちも理解しないのよ!

 兎に角、話を切り替えよう……「取り敢えずゴースト……此の侭じゃあナダカ海域に流れ着くわ。其処で一旦、私達は二手に分かれましょう」其れは保険という意味も兼ねて、ね。

「ホホウ、二面作戦カ?」

「そうよ、先ずは私が直接奴の息の根を止める。若しも私がへまをしたら次は貴方よ……ちゃんと息の根は止めなさい、ゴースト」

「エエ、ヤダー」

「普段とのギャップが出来るからそう云う返事は止めてよ!」

「冗談ダ、甲越寺秋雨ノ物真似ヲシタダケヨ」

「だから訳わからないから止めてって五年間も言わせないでよ!」

 其れでも此のシルバーピープルは引き受けてくれるわ。だって此奴は慇懃無礼な性質なのは確かだけど、私の言う事ならほぼ何でも聞くからね。最も忠実に言う事は聞かないと思うから其れも込みで私はあのオールド・イノベイターが私との戦いを終えた後に奴をまんまと信用するわ。信用性は薄い可能性も在るけど、言われた事は素直に聞く所から信じるしかない筈よ。


「えっと……此の世界にもシルバーピープルは居たんだな。ま、まあ覇者の命令で俺の所に来たのか?」

「回転王ガ実質ラスボスダ」

「いや、知らんからさ……」尤も相手を困惑する訳のわからない話さえしなければ、ね。

更新日:2020-03-20 20:05:38

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