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その10

その10
剣崎



「お疲れのところ悪いんだが、俺も立場上、まず確認だ。”中”では摺合せ通りに済んだ…、そう解釈していいか?」

注文を終えてすぐ、まずは肝心の首尾を念押しした

「はい。問題なくやれたと思います。こっちがびっくりするくらい、事前に聞いてた通りのアプローチでしたから」

「そうか。君には、すまないことをしたと思ってる。面倒をかけたな」

俺はとりあえず、胸を撫で下ろした

彼の対応に問題はないだろう

よし、他の話は飯の後だ


...



その後、食事は割とすぐ運ばれてきた

食事中は”用件”には触れず、取り留めもない会話で間を持たせた

食後のコーヒーとなったところで、さあ、諸々の話といこう

「”中”で察してるとは思うが、ケイコは反応出ずで、もう戻ってきてる。一度会って、君の部屋と電話番号を伝えた。アイツとは色々と話してな…。君には、出てきた後、心の整理をまずつけてほしいと言ってた。そのあと、すっきりした形で会いたいと」

「そうですか…」

彼は低い声でうつむき加減だった

「実は、ケイコが出頭する前に君のことを話したら、半狂乱で大泣きされてな。ケンカ腰で2時間以上やりあったよ(苦笑)。アイツ、君にプロの道を閉ざしたばかりか、犯罪者にさせたって、自分を責めてる。勿論、本当に責められるべきは、俺と麻衣だ」

アキラは無言で聞いていた

「君も、ケイコに偽証させるような選択をしたことで、自分を責めてるんだろう?だが、お互い、思ってのことだ。君らは汚れていない。汚れてるのは、こっちさ。だから、せめて君とケイコには今回の件、これできれいさっぱりにさせたい。虫がいいと思われるだろうが、忘れるんだ、この”茶番”一切をな…」

「…わかりました。正直、気持ち的にはしんどいですが…。剣崎さん…、ケイコって、オレにとっては、夏の陽射しなんです。変な言い方だけど…。オレ、ずっと寄り添ってかなきゃ。目の前の厚い雨雲、一緒にどかさないと…」

「それでいい。アイツも同じ気持ちで、君のもとに飛び込んでくるさ」

「あの…、まず一つだけ、済ませておきたいことがあるんです」


...



「…なんだ、それは」

「麻衣、まだ病院ですか?」

「ああ、あと数日はな。その後、ヤツは家裁の審判を受けることになるようだ。拘留期間は終わってるから、外には出られるが」

「病院、教えてくれますか?」

「会うつもりなのか?麻衣と…」

「ええ。それで”決着”にしてきます。ケイコの分も含めて…」

「そうか…。ケイコは君への今回の行動でな、麻衣に対して深い憎悪を抱いてるからな。君が麻衣に会って、それで二人が麻衣とは”終い”にできるんであれば、俺の方もそれに越したことはない」

これは、偽ざる俺の本心だった

アキラとケイコに、麻衣の存在を”消し去って”もらうことは、こっちにしたら、願ってもないことだ

「…処分が決定してない今の段階じゃ、当局にバレたらまずいか…。まあ、その辺はこっちでうまく調整しよう。あさってくらいでどうだ」

アキラは了解した

よし…、これで、麻衣から二人を切り離せそうだ






更新日:2019-12-22 23:53:40

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