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その8

その8
麻衣



顔デカはタバコを吸いながら話を続けた

「正直、私はこれまで、砂垣を通してガキの世界にかなり関与してきた。だが、これからは遠巻きで見守るつもりだ。けっして自分がコントロールする気はない。お嬢ちゃんたちには好き勝手、猛ってもらって構わない」

はは…、わかりやすく来たな…


...



「私の察するに、君はエネルギーを持て余してる。まだまだやりたいことがあるんじゃないのか、麻衣さん。まず聞くが、相馬さんがいない相和会で今までどおりが無理なのは、承知しているんだろう?」

「ええ。それ、私は受け入れてますし。でも、事実上、相和会とは切れていませんよ」

「ああ、そうだろうな。それに、相馬さんへの気持ちもそうは捨てられない。これも理解してる。そこのところは、十分配慮する気でいる。まず、相和会、はっきり言えば剣崎君になるが、彼とはすっきり話がつけられる。相馬さんへの君の思い入れはこの私が自身をもって、尊重する。これでどうだね?」

「…」

こりゃ、全面譲歩じゃん

はっきりいってやりたい放題できるって、これなら…


...



まあ、私だって割り切ればこの話、魅力だわ

従来とは違った次元での暴れ方ができるしね

”麻衣ヒットリスト”の連中を、私の”やり方”で思う存分、料理できるよ

でもねー

うーん、つらいっところだが…

顔デカさん、悪い!

無理なのよ、私…

...


「会長さん、そこまで私を買ってくれて、ホント嬉しいですよ。こんな待遇を提示いただくことが、私にとってどんなにビッグチャンスなのか十分、理解できます。その上で、お断りするしかありません」

「…なぜだ!」

「私には、相馬さんの真髄が乗り移ってるんですよ。そうですね、すでに1年前から…。剣崎さんは承知してますよ。そうなると、普通の感覚は通用しません。私は死ぬまで自分を挑発し続けるんです。止められないんです。あなたは長い間、相馬さんと接し続けてきたはずです。なら、ここまででお分かりになるかと…」

「ううっ…」

いやあ、なんともいえない顔つきしてるなあ…、このじいさん(苦笑)

「で、そうなれば、もう一つのアプローチに対してもお答えする必要はありませんよね、諸星さん」

自分で言うのもなんだが、これは逆詰めだ


...



「今一度聞く。本当にいいのか?今の君の答えは、今後、”いろんな事態”をもたらしもたらしかねんのだぞ」

「はい。そこまで考えてのことですから。繰り返しますが、お気持ちは大変感謝しています。こんな生意気な小娘に、なんとありがたいことだと…。しかしながら、無理なんです」

「一応尋ねよう。それは、相和会側と協議したとか、あるいは剣崎君あたりから指示されたとか、そういうことでの答えなのか?」

「いいえ。自分の一存です。私はたとえ剣崎さんであろうと、トップの矢島さんであろうと、こうしろと言われて、はい分かりましたはありません」

「…」

おお…、ここでめちゃくちゃ怖い顔になった


...



「あの、もう一言だけ申し添えさせてもらいますね。もう少し早かったら、私の対応、違ってたかもしれません。その理由、まもなく耳に入ると思いますので…」

「その理由とやら、ここで聞けないのか?」

「申し訳ありませんが…」

「そうか…、残念だが、君とはこれっきりにしよう。最初に言った通り、無駄なことには労力を注ぎたくないからな」

「すいません…」

「最後に一つだけ教えてくれ。相馬さんの真髄とは何なんだ?」

「獣のように生きることです」

「ずいぶんと、抽象的だな」

「なら、この業界の方には、最もわかりやすい表現でお答えしましょう。”欲望の階段を登るような人生だけは送らない”、これを心の鉄則に生きていけるということです」

「…。大変わかりやすかった。では、”元気”でな…」

ここで顔デカの親分はホテルを後にした


...


決まったわ、これで…

この瞬間、”いろんなこと”を後押ししちゃったし、私…





更新日:2019-11-28 18:56:04

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