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その8

その8
麻衣



「倉橋さん、この返事はいつまでですか?」

「今、この場でだ」

「そうですか…。じゃあ、ここであなたに抱かれた後、その”結果”で、返事する…」

「わかった」

私はその場で勢い良く服を脱ぎ、ベッドまで走っていった



...



線路沿いの最上階の部屋で、二人は激しく愛し合ったWA

イカレ合った

汗だくになって…

その最中…、私は、この人の心にぶつかった

真正面…

この時もその言葉が頭をかすめた


...



互いの命と向き合った”行為”のあと、私はすぐに服をまとった

シャワーも浴びずに

理由はこの肌感を置いて行きたくなかったからかも

私は再び窓側の椅子に腰かけて、ベッドで横たわってる彼を見てる

タバコをとてもおいしそうにくわえてるわ…、この人

この時の倉橋さんの口から出でるケムリ、なぜかオーブに見えた

誰の…?


...



私は決断に行きついていた

倉橋さんと抱き合っていて、確かなものが掴めたから…

「私、飲むわ。相和会の突きつけてきたモン」

「麻衣ちゃん…、本当にか?」

「ええ。二つともね。いや、両方じゃなきゃ意味ない。私としては…」

「両方?…とにかく、いいんだな?」

「私、生まれてこの方、一度吐いた言葉、すすりあげたことなんてないから。ああ…、とりあえず、婚約ってことでお願い。お母さんの同意とれたらすぐでいいわ」

「わかった。相和会にはそれで持ち帰る」

この人の今の本心、ホッとしてる?

自分の命がつながって…

ううん、ちがう!

この撲殺男は、守るべきものを得たという高揚感に出会って、ときめいてるんだ

そうなれば…、あと二つ取りつけなきゃ…


...


「倉橋さん、後出しじゃんけんになっちゃうんだけど、条件とお願い…、それぞれひとつずつあるのよ。お願いできるかしら?」

倉橋さんは珍しく、白い歯を見せて笑ってる

まったく、もう…

その顔はそう語ってたわ

「なら、条件から先に頼む」

「あの…、今の確約、剣崎さんにも直で伝えたいの。やっぱりね…。取り次いでくれますかね?」

「ああ、大丈夫だと思う、それは…」

「じゃあ、お願いの方ね…」

ここで私は椅子から立ち上がり、ベッドで寝そべってる彼の脇に体を寄せてから言った

「あなたと婚約するってこと…、これ、この状況なら倉橋さんは私の保証人という立場だと思う。命を懸けた…。そうでしょ?」

「ああ、そうだな」

「ならよ…。私が仮によ、本当に仮に何らかの、例えば事故とかで死んじゃったりしたら、そこで組への保証人の立場は消滅するわよね?」

「そうだ」

「その場合には、忘れて欲しいんだ、私のこと。できれば、過去も全部」

「おい…!」

この人、いつも言葉短いから、おそらく”おい”の後は、何言ってんってんだよとか、勘弁しろよとかって感じかな…


...



「できる範囲、極力ってとこでいいのよ。お願いしたいの、…っていうか、心がけておいてねってとこかな」

「フン…、俺みたいな武骨もんにはついて行けねえよ、君の頭の中味には。まあ、心がける。このくらいの日本語は俺でも承知してるから、大丈夫だろ」

「ははは…。ありがとうね、倉橋さん。バカな私だけど、よろしくね」

「そっちがバカだったら、この俺は何なんだ。もう、難しいことはゴメンだよ(苦笑)」

「私たちはお互い、ヘンテコなバカなのよ。結局イカレてるってこと」

彼は一言、「なるほど」とだけ言った…


...



剣崎さんと話がつけば、なんだか私、終わっちゃう気もする…

さっき…、彼を確かめて、私の求めていた何かに達した喜び

これも、もう過ぎたことになりかけてる思いもどこかにあるんだよな…

私の中の”主”は、これからどこに向かおうとしているの…?





更新日:2019-11-28 03:10:57

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