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その2

その2
剣崎


「やはり麻衣だな、トータルで考えれば…」

案の定、叔父貴は関東が麻衣をマトにかける可能性を否定していなかった

「全面謝罪した後もスキあらば仕掛けようってか!あの”雑談”ってならよう、麻衣への手出しも示唆してるってことだろうが。そもそもだ、こっちが消す予定だったチンピラとはいえ、和解申し入れと同時に謝罪相手の組員に手をかけやがって、クサレ極道が!」

叔父貴は昨日の4者会合で明らかになった”雑談”には、怒り心頭でカンカンになっていた

「…関東のクソ連中め、西が目をつぶる許容幅を犬飼から引き出して、保身の線引き獲得を今回の全面譲歩の対価としたんだ。しかも犬飼を取り込んで、あわよくば西の組織内までいじりこもうって下心も丸見えだろうが!助川さんも怒っていて、ここまでナメたマネされた限りは、関西の本家に訓読を入れてくると鼻息荒かったぞ」

「叔父貴、関東は今回、関西の内部事情をかなり読み込んでいたと思えるんです。実際のところ関西広域の勢力情勢はどんな現状なんですかね?」

これは俺の素朴な疑問だった

...

「俺も外部の人間だし、事正確には把握してないさ。だが、かなり複雑なようだな」

「自分あたりには、広島の五島さんとその友好団体である新義友会に、神戸の犬飼さんが対抗するという図式が先入観としてあるんですが…」

「うーん、そうなんだろうが、枝の弱小団体がどっちの側かって色分けが今ひとつはっきりされてねえようなんだ。特に最近はその傾向が強いらしい。この辺が関東とは違うところで、要はその時々の状況次第で、右に左にってな。まあ、選挙で言えば、無党派層に当たるかな。それを関東サイドはよく察しているんだろう」

こう語った後、叔父貴は大きくため息をついてテーブルのアイスコーヒーを口に含み、ますます苦々しい顔つきになっていたよ

...


「なかなか悩ましいところですね。でも、西には助川さんという、大目付け役が存在しています。これは関東にない強みでしょ。叔父貴が言われましたが、本家に直談判してくれるそうじゃないですか。昨日の神戸じゃあ、あの犬飼さんにも堂々の貫録で詰め入ってましたよ」

「それはそうだが、時代は確実に動いている。あの淀殿も如何せん、もう年だ。今の若い連中でも過去の人と括ってる向きは少なくない。もちろん、表立って声をあげはせん。要は時代の流れに沿って、現実的なものの考え方が主流になってきているんだ。剣崎もその点には神経を注がんといかんぞ」

恐れ入った…

70近いこの人が、リアルに時代を捉え、現状を直視できているばかりでなく、その先にまで自らの感性を持っていけてる

激情タイプなのに、物事を客観的かつ冷静に見極めているし…

相馬さんと明石田さんがコンビで戦後極道界を席巻した所以が、今さらながらよく理解できる…

...


「麻衣については今後も当然、ガードを怠らずで行きます。戻り次第会長とは相談するつもりですが、叔父貴、どんなもんですかね。実際、麻衣の目の前にある危険については…」

「剣崎よう、焦点を見誤っちゃいかんぞ。麻衣は伊豆に出向く直前、大打とかってガキに宣戦布告されたんだろうが。”殺ってやる”とよ。あの店の登記は売買原因日では、その時には第3者に移っていたそうじゃねえか。確信犯だ、普通に考えれば。そいつは決して遠くない場所で目を光らせている。まずは、そう考えるべきだ」

「では、今のガード二人はしばらく外す訳にはいかないですね…」

「そこは何とも微妙な判断になるな。目を光らせてる相手が時期を定めているかと言えば、断言はできねえよ。とりあえずやーめたなんあかもありだと思うぜ」

「はあ…」

「そういう局面では、頭の中を切り返る癖をつけた方がいい。お前は応用も利くし、多角的な視点も持ちあわせている。当然、それに対応した行動を実行できるパワーも信念も伴ってる。だが、やや直線的な面から、いわゆるストレスを散らせられないことが、行き詰まった時の突破口を塞いじまう傾向があるな」

俺は手っ取り早く結論が聞きたかった

「その解決法をこの際、教えて下さい、叔父貴!」

「よし、言ってやる。”遊び”を取り込むことだ。それだけでいい」

「はあ…?」

「ここでピンとこないこと自体、お前の中で”遊び”が欠如しちまってるよ。簡単に言えば、くだらねえことでも夢中になれる余裕を持つことだ。例えば、ナマズ様にのめり込むとかな」

そういう観点か…(苦笑)

目からナマズ様の鱗だな…

...


「どうだ?俺の教授、アホらしくて聞く耳持てんか?」

「いえ…、でも実際に何をと言われても、すぐ頭には浮かばないですよ」

「なら、今からウチに来い」

俺は目をぱちくりさせていたよ




更新日:2019-11-27 17:54:05

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