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その10

その10
砂垣



いよいよ時間か…

この時間に蘇我がまだとは…

やはり”あっち”に行く気なんだろう

蘇我…

...


「砂さん、両サイドのルール確認が済んだぞ。真樹子がそろそろ始めようってことだ…」

「ああ、時間だしな。行こうか」

「だが、蘇我が来てないんだ。奴に近しいのも7、8人…、皆、顔を見せていないし。もう少し待った方がいいんじゃないのか?」

「…大場、蘇我は来ないさ。っていうか、俺たちとは切れるつもりだろう」

「…いいのか、それで?あんたは…」

大場は落ちついた口調で、特段動揺している様子は覗えなかった

おそらくこいつは、蘇我が俺たちを見切ったことを薄々感づいていたんだろう…


...



「…俺の考えは十分伝えたつもりだしな。それでもってんなら、しょうがねえよ。お前もその気なら遠慮はいらねえ。”向こう”に行くなら止めないぜ」

俺は思いのままを口に出したが、やや投げやり気味でもあった

「…いや、俺はあんたの捉える”一線”ってのは、理解できるよ。でもよう…、今まで俺たち3人はずっとつるんできたからな…。できれば奴を引き戻したい。それが正直な気持ちだよ」

「俺もそうしたい思いでいたさ。だけど、大場、蘇我はもう大打に取り込まれてるよ。残念だが…」

「クソッ!蘇我は砂さんが本郷麻衣に抱き込まれたと思い込んでたんで、その不満を抱いてるのを知った大打に付け込まれたんだ。ふん…、大打の野郎はよ、あんたは自分と張り合う気概も失せた臆病者だと、俺にも吹いていたよ。大打のダボめ、あんたはこれからの時代に置いて行かれる敗北者だとヌカしていたわ」

星流会を経由して、”奴ら”が大場や蘇我に接触していたのは察していたよ

いや、優子や女連中を含めて片っ端からだってこともな…

「ハハハ…、まあ当たってるよ、おそらく。ついこの間までは、時代の最先端を行ってると自負してたのにな…」

「砂さん…。俺だっていくら何でも極道もんとの距離感に無節操では、あとあと取り返しのつかないことになると思う。正解だよ、今回の決断は…」

大場と蘇我の対応が分れたことの根本は、俺が急に麻衣を受け入れる態度に転じたことに対する感覚の違いだろう

去年の春、当時高校1年だった本郷麻衣が相和会の幹部とあうんの呼吸で、俺たちを手のひらに乗せた底知れぬ力量を身を以って味あわされたからな…

その経験則から麻衣のことを、蘇我のように軽く見据えることができなかったということだろう





更新日:2019-11-06 18:42:34

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