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その1

その1
砂垣



ついに金曜決戦の夜が来た…

夕方5時には薪を焚いて、”会場”の設営にかかっていたよ

バグジーはすでに到着している

盛んに水路沿いでフットワークに没頭していたんだが、ちょっと一服ってことで、薪の近くにいる俺んところへ寄ってきた

「…砂垣、聞いていいか?」

「なんだ?」

「今日のメインジャッジ、南玉連合側の女の子に依頼したそうだな。なんでまた、その子に話しを持って行ったんだ?」

「ハハハ…、お前、ひょっとして、俺がなにやら策を画してるとかって勘ぐってるのか?」

「いや、そうではないと信じて、確認してるんだ。やはり、こういう状況だ。いやでもいろいろと耳に入ってくるしな。…何でも、その子、南玉の元リーダー格だったとか…」

「ああ、そうだよ。ふふ…、横田競子って言う名前なんだが、1年前、麻衣と火の玉川原でサシの決闘張ってさ、ドローに持ち込んだ子だ」

「…」

この時のバグジーは、何とも言えない顔つきになっていたな(苦笑)


...


「…それをこの夏亡くなった、相和会の相馬会長に見染められて、ついこの間まで麻衣と共に南玉連合を引っ張っていたんだ。ああ…、先週のここにも居合わせたぜ、彼女。カモシカのような足をした背の高い子だ」

ここまで告げると、バグジーは横田競子の見当がついたみたいだ

「砂垣、まだ俺の質問に答えていないぞ。あえて、その子にジャッジを持ち込んだ理由だ」

ああ、わかってる、バグジー

今答えるさ


...


「横田という子は、まあ、こんなところでケンカする連中とは似つかわない、ごく普通の女子高生だよ。いや、今は事情があって、元女子高生だ。この夏、警察に厄介になっていてね」

バクジーは、食い入るような視線を俺に向けながら聞いていた…

「そうか…。だが、まだ理由は言っていないな」

「はは…、すまん。だが、それは一言で済んじまう。彼女がピュアでフェアな人間だからだ」

「…」

俺は、バグジーの顔つきを注意深く見ていた

コイツ、今まで見せたことのない表情じゃんか…


...



それは愕然…

まあ、そのものだったよ

「どうした、バグジー…」

「いや、何でもない。だが、その横田って子は、普通の女子高校生だったのに、なんでまた麻衣と決闘したり、警察沙汰とかになったんだ?今だって、南玉をリタイアした身だってのに、何故、この場に出てくるのか…」

「答える前に、もう少し、彼女について付け加えよう。横田競子が元女子高生ってのは、退学処分を喰らったからだ。クスリ絡みで警察沙汰になってな。あの子は今、親に勘当された状態で、年上の男と同棲してる。その彼氏も、クスリで捕まったよ、彼女と同時に。だが事実として、南玉はこの夏、彼女がいなかったら割れていた。今回、女どもが墨東会も引きこんで固れたのは、あの子が動いたからだ。そういう子なんだ、横田は…。今日の俺達の雌雄を決する場には、彼女がふさわしい…」

「…わかった」

バグジーはそれだけぽつりと残し、また水路の方へ消えて行った

オレは不思議とヤツの胸中が手に取るようにわかったよ

それは…、以前、俺も感じたことだったからな…

さて、ここで優子の様子を確認しておかないと…




更新日:2019-11-06 21:15:30

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