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その5

その5
麻衣



本郷麻衣という私…

所詮コイツは、どうしようもないほどのトラブルメーカーなんだよ

やっと復帰が叶った直後から組織を支えるトップを紛糾させちゃうんじゃ、誰が見てもそう捉える

この人達はこれから一致団結して組織を再興させ、都県境をリードしていく使命があるというのに…

3人の激論を耳にしながら、私はめったにない自己嫌悪に陥っていたよ

...


「…なら、再度総会を開催だ。明日にでも。何しろ、本郷とドッグス復帰は南玉総会の正式決定を経たんだ。それを幹部3人だけで覆す訳にはいかない」

「荒子…、あなたがそこまでして本郷を呼び戻す意味、どこにあるの?この子が戻れば組織の平定は維持不可能よ」

「のん子、敢えて言うよ。我々は今、壊滅寸前まで陥った南玉を再建しなきゃいけないんだよ。安易な平穏なんか無用だって!それよか、みんなが熱い信条をもってやり合える環境こそ必要なんだ」

「…」(全員あんぐり…)

今、荒子総長の口から出た言葉に私は正直驚いた

この人は、さっき私が頭の中で呟いた”一致団結”など念頭にないのか…

南玉のこれからは”それ”よりも、みんなが己の信条をぶつけあってつくり上げるものだと…

私はこの瞬間、悟った

赤い狂犬の唱える本当の意味でのイケイケ路線とは…、”これ”だったのかと…

...


「…すでにさ、都県境全体のフレーム再編の方向性はついたんだし、後は各組織内の猛る女たちがガンガンやり合って、然るべきカタマリに持っていけばいい。私はそう考えてる。何も内部対立を恐れることなどないよ。真っ向でガツンだ。”それ”をやってこれなかったから、南玉はあんな無様な姿を晒したんだよ。それを私たちに教えてくれたのはコイツだよ」

「…」

そう言って荒子総長が私を向いて指さした

するとあとの二人も私の顔に視線を向けた

「確かにやり方は滅茶苦茶だった。でもコイツは南玉が都県境を引っ張っていく存在であり続ける形を願って行動したんだ。今の私にはよくわかるよ」

「おい、荒子‥」

「いづみ、本郷がさっきそっちに問いかけたのは、本田への濡れ衣への疑念を表面上だけで繕っても根本の解決にはならないだろうってことなんだよ。コイツは、三田村に本田が臆病風に吹かれて横田一人を川原に置き去りにしたという情報を流させてことは認めたんだ。私らはそんなのデマだし、悪意のある中傷だと信じてるよな。ならさ、それを今後、メンバーにビシッと伝えていけばいいだけなんだって」

恵川・高津両先輩は、荒子総長がなぜこれほどまでに私をかばうのかと、愕然の表情だ

当然だよね

そう私も思うって

だが、総長の言葉はさらに続いたんだ

...


「なら、除名を受けた身で復帰を承認してもらったコイツが、そんなマネしでかしたことを許すってのかよ!」

もう恵川さんは顔面を紅潮させ、ケンカ腰だった

「許されないことさ。だから、償わせるんだよ、いづみ。この南玉連合に戻ったあとのコイツの行いで。…いいか、本郷、性根入れてよく聞けよ!」

総長は一段と声を大きくして、私に向かって言葉を放ってくれた

それは熱くて暖かい言葉だったよ

とてつもなく…





更新日:2019-11-06 19:55:36

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