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世界を創造してみたけどバグが多すぎて埒があかない件

遠くの街で女が首を切られた。
ブレスレットをひとつ盗んだらしい。

そのニュースは紙面の右下を、小さく正方形に切り取っていた。同じ面のほとんどは彼の応援する野球チームの記事で占められている。とはいえいいニュースではない。むしろ当該球団は今シーズン不調で、かれこれもう五回目となる大敗を喫していた。今日の一面も同じネタが飾っている。

 そろそろ球団も潮時なのかもしれなかった。三年前に大リーグで三連覇を飾って胴上げに沸いた彼らの本拠地は、今では客もまばらで、打とうが外そうが歓声もブーイングもない。現監督もよく持ったものだ。弱小球団を大リーグ連覇に導いて一躍時の人となった彼だが、ほどなく有力選手の故障や二軍選手の不祥事が重なり、ずるずると転落の一途をたどり続けている。もうそろそろ監督辞任のニュースが出るだろう。

彼は新聞を読みながら、真っ昼間のパブでハイネケンを傾けていた。


 
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 飛んできた小石が右のこめかみをかすった。すでに切り傷を負っている目元を直撃しなかったのが幸いだったが、間髪入れずに次の一撃が向う脛をしたたか打った。女は呻いた。身じろぎすると体に縄が食い込む。

 街角の宝飾店からブレスレットを盗んだのは二日前のことだった。守るべき子どもがいたわけでもない。食べ物に困っていたわけでもない。単に遊ぶ金が欲しかっただけだ。警察から突きつけられた防犯カメラの映像は不鮮明で、否定しようと思えばできた。しかし、出来心で働いた盗みは、一夜明けると津波のような罪悪感を生んで彼女を襲った。警察が紋章の入った手帳を持って家を訪ねてきた瞬間に、全て終わったと感じた。しらを切る気力などなかった。果たして観念した容疑者に警察は容赦がなかった。ベルトコンベアに載せられたように留置所から裁判所へ移され、晒し刑の後に斬首と決まった。

 これほど時間を戻したいと痛切に願ったことはなかった。ある日を境に世界の全てが自分の敵に回り、それが自分の責めに帰すという感覚は、味わった者にしかわからない、暗く恐ろしいものだった。罪人とはこの世で最も身分の低い存在だ。虐げることが合法とされ、擁護し救済する理由がどこにもない点において、奴隷にも劣る存在だった。

 斬首の日は、二日後だった。

更新日:2019-11-06 14:39:57

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