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死者よりの手紙

その1



”まさに急展開だ…。これで別部屋行きかどうかの結論付けに持っていける!”

向井月枝からあらかたの”経緯”を聞き、そう確信を持った秋川はやや興奮していた。

”それにしても、たかだかネットオークションを通じて一度会っただけの男女が、ここまでの手繰り寄とは…。無論、偶然というの風呂敷で包んじまえば、すべては何もなしで終わるがな…”

秋川は刑事の立場を離れたスタンスで、人の因果がなせる底知れなさをまじまじと突きつけられた思いだったのだ。

とにかく秋川にとっては、向井の叔母と接触できたことは大きな”収穫”と言えた。
彼は、彼女との一問一答を再度、振り返った…。

...


「…あのう、名字でお気づきでしょうが、私は向井祐二の親類で、叔母に当たります。まあ、彼の父親の弟が私の夫なんで、血は繋がってませんが…」

「そうですか…。ええと、これはこちらから申し上げるのも心苦しいのですが、祐二さんは亡くなられたとか…」

「やはりご存知でしたか…。あの子は一人っ子ですでに両親を亡くしていますし、独身で妻子もいないので…。私たち夫婦が唯一の縁戚と言うことで、一昨日、警察から連絡がありまして…。主人は痴呆症で病院ですので、私が昨日、警察で遺体を引き取ってきましてね…」

「それはそれは…、いや、ご苦労様です。お取込みのところ、何とも心苦しい…。それで…」

「ええ、”そのこと”なんですが、正確には、祐ちゃんの死は警察から一報が入るその日のちょっと前にわかったといいますか、あの…、彼からの手紙でそのことが…」

「…!!!」

秋川はまさに愕然として、携帯を握りながら体がフリーズした。


...


「あのう…、手紙ですか…。祐二さんからの」

「はい。消印からして、首を括る前日に郵送したものです。つまり、その…」

「…いわゆる遺言ってことですか?」

「どうなんでしょうかね。そもそも遺言書は家の金庫の中にあるとか、その手紙に書かれていましたし…」

「は…?と言うことは、その手紙は彼が叔母に当たる向井さんに、自殺をするつもりだと告げる目的で発送したと…?」

「それもあるんでしょうが、目的ってことなら、千葉の津藤律子さんに対する何て言うんでしょうか…、気遣い、心のこり…、とにかく律子さんを按じて、私に彼女のことを頼むということなんですよね」

”繋がった…!これで津藤律子と向井祐二は、単なるネットオークションで一度会った”間柄”で”終わっていない”とはっきりした!”

秋川は思わず心の中でこう叫んだが、即、”終わっていない”を”終われなかった”と修正した。






更新日:2019-10-06 20:18:51

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