- 5 / 10 ページ
その5
その5
夏美
火の玉川原に着いた早々のひと悶着は、新体制下の南玉連合と紅子さんが去った後の、ここ都県境”ホットスポット”を暗示していた
「お前ら、一列で横に並べ!ああ、北田はそのままでいいから…」
あっこが乱闘騒ぎを起こした9人に、事情を聴取してる
「よし。お互いの言い分は承知した。で、先輩、そう言うことだそうです。どうします?」
「この件は、集会が終わった後にしましょ。荒子には私から言っとくから。もう、みんなは持ち場について。いい?これ以上の騒ぎは絶対、起こさないで。他のメンバーにもしっかり伝えなさい。いいわね?」
「はい!」
9人は一斉に各所属のエリアに散って行った
...
「先輩、今の一件どう見ます?」
「言うまでもないわ。本郷麻衣の仕掛けでしょ」
「じゃあ…、親衛隊にケンカを売ったと…」
「ううん、正確には南玉全員によ。荒子も鷹美も真澄も、それに…、OG、OBも含めてだわ」
「えー?OGとOBもですか?ふー、だとしたら、私らでは手に負えませんよ」
「あっこ、視点の問題よ。いくら本郷でも、全員をまとめて敵に回せないわ。第一、南玉という組織内から仕掛けてきてるんだから、そもそも。そうでしょ?」
「はあ…、まあそうですね…」
私はすでに確信していた
本郷麻衣は、まず現状のフレームを揺るがすことで、次のステップを見据えてくると…
...
「ふふ…、あのね、あの子は敵と味方を選別してるのよ。厳密に言えば、潰すべき相手と利用できる相手ということじゃないかな。まあ、今日は最初だけど、本郷はいきなりカウンターでくるわ。さっきのも、あいさつ代わりのジャブなんかじゃない。可能なら一気にって腹は常に持って、かかってくるんじゃないかしら」
「では、どうするんですか?さっきの件は」
「集会前の”継承”の席で、私が切り込むわ。とりあえず、みんなの反応を集約する。本郷は南玉の足元を見切っているだろうから、それぞれの思惑をさ、ヤツには逆手に取られないことが重要になるわね」
「先輩、私には難しくて今イチついて行けませんから、よろしくお願いしますよ」
私は苦笑して、横に立っていたあっこの脇を肘でおっぺした
さあ、新体制の門出となる総集会では、私においても総活となる…
...
「先輩、あれ…!」
ブオーン、ブオーン、ブブブーン…
その時、あっこが指さした方向には、火の玉川原にいるほぼ全員が視線を向けていた
そのバイクは、土手の石段をまるで龍のように駆け下りてくる
腰をあげ、両足を縦横に屈伸させ、一段一段…
「うぉー!すげー」
「わー!頑張れー」
石段の中央付近まで下ると、一部の掛け声が大きな声援に変わった
「先輩、あれ、もしかして…」
そう…、おそらく本郷麻衣だろう…
...
ブオーン、ブオーン、ブブブーン…
ブブブ…
比較的小柄な体格の少女は降りきった…
「こりゃ、すごい!高原亜咲以来じゃないのか?」
OB、OGの面々も、今、目の当たりにした急降輪に興奮しきっている
そして、バイクのエンジンを切りヘルメットをとると、そのバイクの主はやはり本郷だった
一斉に拍手が沸き起こった
それは、まさにスタンディングオベーションだった
パチパチパチ…
本郷はバイクを降り、ゆっくりテントへと歩き始めた
本郷が進む両脇は、拍手するメンバーで数珠つなぎとなった
「麻衣ー!」
颯爽と大降輪を果たした自分たちのリーダーに向かって、レッドドッグスの仲間たちが、感激した面持ちで駆け寄っていった
本郷は無表情のまま、一人一人、先輩に挨拶しながら、ゆっくり歩いてくる
そして…
本郷が私達の前に近づいてきた
...
「湯本先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様…」
あっこはいつになく、”殊勝”に後輩へ挨拶を返した
次に私の正面に立った本郷は、静かな口調でこう言った
「相川先輩、1年間、総長補佐のお役目、ご苦労様でした。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ。今の急降輪、見事だったわ。亜咲が見たら喜んでたでしょうね」
「亜咲先輩は、あんなもんではないですよ。私のは、所詮まやかしです…」
本郷麻衣は鋭い眼光で、呟くように言った
この子は何を言おうとしているのだろうか…
全く、底知れない少女だ
私たち二人は、しばし、”いつも通り”の睨めっこをしていた
夏美
火の玉川原に着いた早々のひと悶着は、新体制下の南玉連合と紅子さんが去った後の、ここ都県境”ホットスポット”を暗示していた
「お前ら、一列で横に並べ!ああ、北田はそのままでいいから…」
あっこが乱闘騒ぎを起こした9人に、事情を聴取してる
「よし。お互いの言い分は承知した。で、先輩、そう言うことだそうです。どうします?」
「この件は、集会が終わった後にしましょ。荒子には私から言っとくから。もう、みんなは持ち場について。いい?これ以上の騒ぎは絶対、起こさないで。他のメンバーにもしっかり伝えなさい。いいわね?」
「はい!」
9人は一斉に各所属のエリアに散って行った
...
「先輩、今の一件どう見ます?」
「言うまでもないわ。本郷麻衣の仕掛けでしょ」
「じゃあ…、親衛隊にケンカを売ったと…」
「ううん、正確には南玉全員によ。荒子も鷹美も真澄も、それに…、OG、OBも含めてだわ」
「えー?OGとOBもですか?ふー、だとしたら、私らでは手に負えませんよ」
「あっこ、視点の問題よ。いくら本郷でも、全員をまとめて敵に回せないわ。第一、南玉という組織内から仕掛けてきてるんだから、そもそも。そうでしょ?」
「はあ…、まあそうですね…」
私はすでに確信していた
本郷麻衣は、まず現状のフレームを揺るがすことで、次のステップを見据えてくると…
...
「ふふ…、あのね、あの子は敵と味方を選別してるのよ。厳密に言えば、潰すべき相手と利用できる相手ということじゃないかな。まあ、今日は最初だけど、本郷はいきなりカウンターでくるわ。さっきのも、あいさつ代わりのジャブなんかじゃない。可能なら一気にって腹は常に持って、かかってくるんじゃないかしら」
「では、どうするんですか?さっきの件は」
「集会前の”継承”の席で、私が切り込むわ。とりあえず、みんなの反応を集約する。本郷は南玉の足元を見切っているだろうから、それぞれの思惑をさ、ヤツには逆手に取られないことが重要になるわね」
「先輩、私には難しくて今イチついて行けませんから、よろしくお願いしますよ」
私は苦笑して、横に立っていたあっこの脇を肘でおっぺした
さあ、新体制の門出となる総集会では、私においても総活となる…
...
「先輩、あれ…!」
ブオーン、ブオーン、ブブブーン…
その時、あっこが指さした方向には、火の玉川原にいるほぼ全員が視線を向けていた
そのバイクは、土手の石段をまるで龍のように駆け下りてくる
腰をあげ、両足を縦横に屈伸させ、一段一段…
「うぉー!すげー」
「わー!頑張れー」
石段の中央付近まで下ると、一部の掛け声が大きな声援に変わった
「先輩、あれ、もしかして…」
そう…、おそらく本郷麻衣だろう…
...
ブオーン、ブオーン、ブブブーン…
ブブブ…
比較的小柄な体格の少女は降りきった…
「こりゃ、すごい!高原亜咲以来じゃないのか?」
OB、OGの面々も、今、目の当たりにした急降輪に興奮しきっている
そして、バイクのエンジンを切りヘルメットをとると、そのバイクの主はやはり本郷だった
一斉に拍手が沸き起こった
それは、まさにスタンディングオベーションだった
パチパチパチ…
本郷はバイクを降り、ゆっくりテントへと歩き始めた
本郷が進む両脇は、拍手するメンバーで数珠つなぎとなった
「麻衣ー!」
颯爽と大降輪を果たした自分たちのリーダーに向かって、レッドドッグスの仲間たちが、感激した面持ちで駆け寄っていった
本郷は無表情のまま、一人一人、先輩に挨拶しながら、ゆっくり歩いてくる
そして…
本郷が私達の前に近づいてきた
...
「湯本先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様…」
あっこはいつになく、”殊勝”に後輩へ挨拶を返した
次に私の正面に立った本郷は、静かな口調でこう言った
「相川先輩、1年間、総長補佐のお役目、ご苦労様でした。本日はよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ。今の急降輪、見事だったわ。亜咲が見たら喜んでたでしょうね」
「亜咲先輩は、あんなもんではないですよ。私のは、所詮まやかしです…」
本郷麻衣は鋭い眼光で、呟くように言った
この子は何を言おうとしているのだろうか…
全く、底知れない少女だ
私たち二人は、しばし、”いつも通り”の睨めっこをしていた
更新日:2019-09-26 22:51:09