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その2

その2


「それならバグジー、こっちからも尋ねよう。…お前さん、今まで2度、殺し寸前でブタ箱にぶち込まれてるじゃん。一度は若い女だろ?その場にいた人間の証言じゃあ、サツが来なきゃ完全ぶっ殺してたってことだそうだなあ…」

バグジーの表情は明らかにこわばっていた。

「アハハ…、尋常じゃねえぜ。そこまでクレージーなヤロウによう、一方的に異常者扱いされてもなあ…。何だかだぜ」

ノボルは意識的にバグジーを挑発するようだった。

”さあ、イイ子ぶるのはたいがいにしてもらうぜ、バグジー。殺しを断る本当の理由、根拠を曝せや!”

約10秒の沈黙の間‥、再び二人は強烈な視線の浴びせ合いを演じていた…。


...


「…この際、アンタには言っとくか。オレの中には極めて凶暴なもう一人の自分を宿していているんだ。”そいつ”が時々、歯止めを失う。…正直、オレはいつか人を殺すかもしれないという気持ちを抱きながら生きてるんだ。子供の頃からずっとな…」

”ついに、この男のベールが剥がれる…”

ノボルはそう確信した…。

「もう一人の自分ってか…。要は二重人格みたいなもんなのか、アンタ?」

「いや、それとは違う。性同一性障害だ」

「はあ…?それってもしかして、肉体的には男でも内面的には女とかって、そういうやつかよ、おい…」

ノボルは、バグジーのあまりにも意外な”告白”に、正直、戸惑いを隠せなかった。
そして…。


...


「そんなとこだ。しかもオレの場合、内面の女こそが凶暴なんだ。男の方じゃないんだよ。そんなところが、女に容赦しないって面に傾きやすのかもしれない…」

「???」

思わずノボルは心の中でのけ反った…。

「はは…、まあ、そっちも理解不能ってとこだよな。とにかくオレはさ、その凶暴な女に、何とか殺人まではさせたくないってことだ。だからこそ、そいつを内包してるオレ自身、自分の意志を以って殺しの請負など拒否しなければならんのだ。まあ、ここでさっきのアンタの言葉通りとなるな。そのことに抱こうする自分を許さない…。奇しくもアンタと同様、決して妥協できない自分に強いるものあるってことになる。まあ、それだけさ。さほど深い意味はないんだ」

「なるほどな…。でもよう、正直なところどうなんだ。…殺すまではいかなくとも、”同性”の女を痛めつけたいとか、戦いたとかって欲求は強いのか?」

「ああ…、”内面さん”はとてもその気持ちが強いようだな。しかも、だんだんとエスカレートしてる感じがしてる。特に、アンタが今言った後者の方だな、欲求的には…」

「単に痛めつけるってよりも、戦うって方か‥」

「ああ…。オレの中と同等の凶暴な女達と殺し合い寸前までやりたい…。ややこしい表現だが、これはもう一つ以外のオレも漠然とだがそこへは駆り立てられてる自覚がある」

ここでノボルは条件反射的に、”あること”を頭に浮かべるのだっったが…。


...


それは他でもなかった。

”コイツを今の東京埼玉境に放り込んだらとしたら…。激しく猛る女たちの群れを前に、バグジーは果たしてどうなるんだろうか…”

だが、東京埼玉境の猛る女のことを話そうと、喉元まで出かかったノボルは瞬時に迷った末、”ここでは”それを告げることは見送った。

...


「いずれにしても、とことん変わったヤツだよ、アンタは(苦笑)。まあ、今後も連絡くらいは取りあいたいんだが…。いいか?」

「ああ、わかった。では、所在は今まで通り知らせる。…大打がどんな道に進もうが、オレは関知しないしな」

最後も二人は十秒以上、無言で視線を発し合った。

だが、これから1年後…、この時のバグジーが口にした言葉に”齟齬”が生じることとなる…。

妥協なき男達も、猛る女達の巣が発する磁気に吸い寄せられ、すでに一年後に現出するラストレジェンドのステーじへと向かうレールに乗っていたのだ…。
そしてそのタイムスケジュールが確定されるのは、翌年の春…、バグジー3度目の塀の中”滞在中”となるのだった…。




更新日:2020-05-22 16:00:14

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