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その7

その7
ケイコ



テツヤはいろんな角度から、下屋の辺りを見上げてる

高さと距離感を見当つけてるようだ

「おけい…、美咲ちゃんに持たせるのに、ホウキかなんかあるか?」

「ああ、ホウキね。今、持ってくるよ」

私は玄関からホウキを持ってきて、美咲に手渡した

長身のテツヤに肩車された美咲は、ちょうど1階の下屋に首が出るくらいの高さまで上がった

どうやらノートの場所には、ホウキ使えば届きそうだ

美咲はホウキで手繰り寄せて、ノートを手にすると、大きな声で下を向いて叫んだ

「とれたよー!」

「よーし、ゆっくり下ろすからな、美咲ちゃん」

はあ~…、美咲のおかげで大騒ぎだわ

「ケガしてるのに、ごめんなさいね。余計なことまで手伝わせちゃって…」

この間、庭から下屋を見上げて見守っていたオカンは、テツヤに申し訳なさそうにそう言葉をかけてた

”やっぱり、男手があると助かるわ”

この人の顔にはそう書いてあった


...



その後、台所のテーブルで私たち4人はお茶となってね

「…4人でここ座ってると、何かお父さんが帰ってきた時みたいだね」

美咲は、せんべいをバリバリかじりながら、母親の方を向いて言った

「そうね。テツヤ君が座ってるイス、お父さんの場所だもんね」

お母さんもお茶をすすりながら、頷いているわ

私の横のテツヤは別に気兼ねしてる様子もなく、女3人を相手に如才なく会話してくれてたよ

うん、楽しいひと時だ

特にお母さん、やけに嬉しそうな顔してる

なんか、ニヤけてるし(苦笑)


...



帰り際、玄関でテツヤんちの電話番号を聞いた

「じゃあ、先輩には今日の報告して連絡するわ」

「ああ、頼む。今日はいろいろ、ありがとうございました。お茶までごちそうになっちゃって。お邪魔しました」

「こちらこそ、なんか手伝ってもらっちゃって、悪かったわね。ホント、助かったわ。又ちょくちょく、遊びに来なさいね。美咲もちゃんとお礼、言いなさい」

「テツヤさん、今日は”肩車”、ありがとうございました」

美咲がこう言うと、みんな思わず笑ってたわ

既にうす暗くなった外にでると、テツヤは「今日はどうもな。じゃあ…」と言って、昼間と同じように手を上げた後、小走りして帰って行った

やっぱり躍動してる

いいわ、アイツ…

玄関の外でその後ろ姿を見送った私…、ちょっと、ときめいてたな





更新日:2019-09-12 12:56:27

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