• 9 / 12 ページ

その9

その9
ケイコ


アキラの留守中に電話が鳴ってる…

どうしよう…

もしかして美咲かな…


...


「もしもし…」

迷った末、私は私らしくないか細い声で、受話器をとった

「…香月さんのお宅ですか?」

「はい…」

わあ、美咲じゃなかった…

声の主は女の人だ

なら、あの人か…


...



「あの、アキラの彼女だよね…、あなた」

「…、えっ?まあ…。ええと、ギターの先生ですかね、そちらは…」

「アハハ…、アキラはそう言ってたんだ。アタシ、天理赤子よ。初めまして」

「初めまして。私、横田競子です…」


...



「アキラからはいつも聞いてるわ。マッドハウスのクローズドん時トイレで、ああ、男子トイレね。その男子トイレの個室で再会した運命の女の子だってね…。そうか、順調なんだ、アキラとは…」

「はあ…、まあ、なんていうか…」

順調というニュアンスが今ひとつ引っかかって、歯切れが悪い…

「あの…、アキラは今バイトで、帰りは夜9時過ぎると思うんです」

「そう…。アイツ、ピザ配ってんだよね。じゃあ、夜遅くでも構わないから、電話してくれるように言ってくれる?」

「はい、帰ったら伝えます…」

いけねえ…、こりゃまずいや


...



「え?あなた、ひょっとしたら、一緒に住んでるとかってこと?」

「…はい、私、ここに置いてもらってるんです、昨日から…」

わあ、言っちゃった…

「…そうなの。ああ、なら概ねは言っとくわ、あなたに。事務所の人とセットできたから。バンド加入の話、進んでるってことでね」

「そうですか!よかった…」

「はは…、それからね、ローラーズん時のおっかけの子も喜んでたわ。ああ、知ってるだろうから言うけど、大阪キャンセルになったことに結果的に加担してた子。自責の念で、何とかプロデビューしてもらいたいって、私に何度もアキラのバンドの口、嘆願してきてたからね…」

「そんな子がいたんですか…」

「えっ…、聞いてなかった?なら、悪いけど、今の話忘れて。ゴメンね。とにかく、話は進展してるから。じゃあ、電話待ってるわね」

ここで、天理さんとの電話のやり取りは終わった


...


電話を切った後も、天理さんの最後の話が気にかかった

アキラを大阪に行かせなかった企みに関与していた、追っかけの子か…

その子、何度もプロデビューを天理さんに頼んでいたって…

えっ?

もしかしたら…

私の脳裏には、ふと”あの時”の麻衣との会話がよみがえった…








更新日:2019-09-12 18:49:06

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook