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その9

その9
ケイコ



その夜、お風呂から上がってドライヤーをかけてると、オカンが話しかけてきた

「どう?テツヤ君とはうまくやっていけそう?」

「うん…、まだわかんないけど…。でも、私さ、どんどんあいつのこと好きになっていくみたいだよ」

今日、テツヤが”告白”してくれた例の話、オカンにも伝えたんだけど…

なんか、オカン、珍しく反応が”軽く”なかった

「男の子がそういう話をするって言うのは、よほどの勇気を出さないとできないわね。でも、テツヤ君も立派だけど、しっかり聞いてあげたあなたも偉いわ」

このオカンが、私にこういう褒め方をすることなんて、滅多にないよ

「私、テツヤのそんな気持ち知りもしないで、エロとかひどいこと言っちゃってさ。反省してるよ」

「そうね。でも、あなた達を見てると、切磋琢磨ね。少しずつ、自分を磨き合ってる様子が分かるわ。だから、大切にしてきゃね、彼も自分も」

お母さん…


...



「ハハハ、とにかくあなた達はいいカップルよ。私も、それにさっき会ったばかりのテツヤ君のお母さんも、応援してくれるでしょうから、頑張んなさい」

「うん。でもさ、頑張るって言ってもなあ…」

「あのね、これは年の功ということで、聞き留めておいてほしいんだけど…。結構大変よ、これから。あなた達が、純粋にお互いの気持ちを育んでいくっていうのは…」

「お母さん、回りくどい言い方じゃなくて、分かりやすく言ってよ。年の功でしょ、それが」

「そうね…。ええと、まずテツヤ君だけど、あなたのことを大切にすればするほど、苦しんでいくわ」

「ちょっと…、哲学者みたいで、ますますわかんないよ。どういうことよ、それって」

「…、テツヤ君の周りにいる大勢の女の子たち、今までうまくいってたんでしょ?一応は。彼、今の話から推測すると、少なくとも複数の子と”それなり”の関係でしょうね。しかも、他の子たちもそれを承知ってことだと思うわ」

私はじっと聞き入っていた

母親の話、こんなに真剣に耳を傾けるなんて、ここしばらくなかったよ


...



「みんなテツヤ君が好きだけど、独占はしないっていうのが暗黙のルールってことでね。それで、波風も立たずだった訳よね。それがケイコの出現で、異変が起きた。そういうことじゃないのかな、今」

「じゃあ、私って、みんなから見たら、敵みたいなもんか…」

「そういうことになるんじゃないの。しかも、敵の前に”憎っくき”が付くかもね」

「ちょっと、お母さん!あんまり脅かさないでよ」

「ふふ、このことを一番承知してるのが、テツヤ君なんじゃないのかな。ケイコ、だから今日、彼はあなたに心の内の自分をさらけ出したのよ。宣言ね、一種の」

「…。お母さん、どうしたらいいのかな、私」

「テツヤ君はこれから、周りの女の子たちへの接し方を変えるわ。そうなれば、相手の女の子たちもテツヤ君への態度が違ってくる。これは今まで、彼が経験したことない気持ちを味わうことを意味するのよ。つらいと思うわ、きっと、テツヤ君」

「…」

「あなたがその彼を”支え通せれば”、解決よ。できる?ケイコ…」

「…、私、自信ないかも…、お母さん」

母親には正直な気持ちを言った

テツヤにはあんなに偉そうなこと言ってて、私は所詮、こんなもんなのか…

「もしかすると、あなたにも嫌がらせとか、いろんな中傷があるかもね。それでも、今の気持ちを大事にできるかどうかよ、二人とも。競い合うのよ、弱い自分と。ケイコ…」

「うん…」

お母さんの言ってる意味は、よくわかった

私と付き合うことで、テツヤが苦しむ…

それ、最初から覚悟してたんだ、テツヤは

それなのに、人に言われなきゃ、気が付かないのかよ、私って…




更新日:2019-09-05 23:27:01

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