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その8

その8
ケイコ



帰りの電車の中、私はいつの間にか眠ってしまったようだ

「おけい、着いたぞ!」

気が付くと、私の家の最寄駅だった

「わあ、私寝てたんだ…」

テツヤは、くすくすと笑ってるよ…

私、寝顔ずっと晒してたのか…

大口開けてなかったかな…、いびきとか

後で聞いてみるか、恥ずかしいけど…(苦笑)


...



駅のロータリーに出ると、迎えらしき車が何台も止まっていた

「もう、おふくろが車で迎えに来てると思うんだよな」

電車に乗る前、テツヤは家に電話をしていた

テツヤは首を伸ばして、すっかり暗くなった駅前を見まわしてる

「ああ、あれだ。行こう」

私は、小走りするテツヤの後ろについて行った

ちなみに、釣竿とかは、”優しい”テツヤが全部持ってくれてる

「おけい、乗って」

赤い小型の車の後部ドアを開いて、テツヤがエスコートしてくれた

「失礼します」

「まあ、かわいらしいお嬢さんね」

車内に入るとお母さんがすぐ、声をかけてくれた

で、後ろを振りかえったテツヤのお母さん、割と若いんだわ

「お母さん、滝が丘高校で陸上やってる横田さんだよ。いつも話してる…」

え?いつもママと話してんのかよ、私のこと…

ま、いいけど、そうだ、挨拶しなきゃ

「横田競子です。初めまして。わざわざ迎えに来てもらって、すいません」

「いいえー、今日はテツヤの道楽に付き合ってもらって、ごめんなさいね。女の子に釣りなんてねえ。ダサいわよね」

「いえ。川釣りなんて初めてだったんで楽しかったです」

「まあ、女好きなバカ息子ですけど、よろしくお願いしますね」

「あ、こちらこそ、よろしくお願いします」

はは、結構ガラガラのおばさんかな…

テツヤをちらっと見たら、こいつ、ニヤニヤしてるわ…

「ああ、そうだ。おけいのお母さんがさ、けさ早起きして、コロッケ揚げてくれたんだ。それがさ、めちゃくちゃうまくてさ」

「あらそう。じゃあ、横田さんのお母さんには、よくお礼言わなきゃね」


...



私の道案内で、7,8分車を走らせると私の家に到着した

「送ってもらって、ありがとうございます」

「うん。いいのよ。ちょっとお母さんにご挨拶だけいいかしら?」

「はい。じゃあ、こちらからどうぞ」

私は足早に玄関に向かい、チャイムを鳴らすと、すぐ玄関ドアが開いた

「ただいま。テツヤのお母さんが送ってくれたんだ。あ、私の母です」

「横田さん、初めまして。テツヤの母です。先日は、息子がケンカしたあと、大変お世話になったそうで…。その節はご親切にありがとうございました」

「いえいえ…。あの時は、ケガしてるのに、屋根の上に落としたノートとってもらったんですよ、テツヤ君に。本当にいいお子さんですねぇ…。ああ、そんなところで申し訳ないわ。狭い家ですが、中へどうぞ」

「いえ、今日は一言ご挨拶させていただくだけで、失礼いたします。なんでも、朝早くからコロッケ揚げていただいたそうで、お気を使ってもらってすみませんでしたねえ…」

なんか、下町のおばさんの会話になってきたわ…

テツヤと私は、お互いの顔を見やって笑ってたよ





更新日:2019-09-05 23:26:11

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