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その3

その3
ケイコ



矢吹先輩、その後の説明はテツヤに譲った

「でもその後すぐ、矢吹先輩に影響された女子がどんどん入ってきたそうなんだ、空手部に。そんで、今じゃ女子部できて。それで先輩は陸上部もこれを機に、女子部設立まで持って行きたいって。ねえ、先輩…」

なるほど…、実際にそういう経験あるんで、大月さんの気持ちは理解できるってことだよね

先輩はニコッと笑って、ゆっくりと頷いた

そして、テーブルに肘をついていた両手の、こぶの目立つ拳を閉じたり開いたりしながら、矢吹先輩が再び口を開いた

「そりゃ、そうだよ。女がたとえ一人でも、やりたいことやろうって勇気出して立ち上がってるのに、それ後押しできなきゃ、何のために南玉で気張ってんのかってことでしょ。南玉内だけで気勢上げてるだけなら、そんなもんいらないよ」

うん、私もエラそうなことは言えないが、まさにその通りだと思う

さすが、2年で南玉のナンバー3に就いてる人だけあるよ

「はは、外部の人にそこまで言っちゃまずいか。でも、まあ横田さん、ご苦労だけど、この件は今後ともこのテツヤを助けてやってね」

そう言うと、矢吹先輩は私に向かって頭を下げた

「あ、先輩、そんな、私なんかに気を使わないで下さい。私でできることは、精いっぱいやらしてもらうつもりですから」

「そう、ありがとう。今日は会えてよかったわ。じゃあ、私、これで失礼するから。二人のお邪魔はしたくないし(笑)」

「えー?先輩、パフェ、まだ来てないっすよ」

「私の分、あなた達で突つきあいなさい、仲良くね…(笑)。それとテツヤ、そろそろ”本物”の彼女、作ってさ、ねえ。アンタの女好き、結構それで治るかもよ。逆療法ってやつでさ…、ハハハ」

「先輩、勘弁してくださいよ。まったく…、やだなぁ」

テツヤ、顔が真っ赤だ、はは…


...



「じゃあ、ごゆっくりね」

そう言うと、矢吹先輩は、レジでまだレシートも来ていない”勘定”を済ませてくれたあと、私たちを振り返り、手を上げて会釈した

私とテツヤは立ちあがったまま、レジ前の矢吹先輩に一礼して見送った

「いやあ、あの先輩、いいなあ。いっぺんでファンになっちゃったよ、私」

「そうだろ。オレもさ、敬愛してんだ、あの人のことは」

そう言えば、この前この店ん時、組織関係なしでも矢吹さんにはついて行く気があるって、そう語ってたな、こいつ

どうやら、矢吹先輩の方もテツヤを可愛がっているようだし

矢吹先輩が帰って間もなく、パフェが”3つ”やってきた

私たちは結構大きな声あげて、会話を弾ませながら、まず目の前の1個目を平らげた

先輩の分はお言葉に甘えて、テツヤと正面を向きあって、突つきあった

テツヤとの話はいつもテンポ良く、尽きることがない

3つ目を二人で食べ終わったあと、私はトイレに行った

ああ、楽しい…

テツヤ、楽しいってば、二人でいる時間が…


...



トイレから戻ってイスに座ると、テツヤはさっきまでとはちょっと様子が違って見えた

そして、唐突に言った

「なあ、おけい。今度、釣り一緒に行かないか?」

「え?なんだよ急に…。ああ、そうか、お前、釣り好きなんだっけ。この前、朝礼台んとこで”釣りバカ”のマンガ読んでたっけな、ハハハ…」

「うん、川釣りなんだけどね、今はもっぱら。で、川釣り、お前と行きたいんだ」

「ああ…、それでさあ、釣り仲間とかいっぱい来るのか?まあ、お前のことだ、あの毛染めたケバ連中とか、女ばっかりなんだろ、どうせ」

「いや、お前と二人だよ。いやか?」

その時のテツヤの表情は、いつもと違って真剣そうだった

なら、私も真剣に答えなきゃ…





更新日:2019-09-05 23:21:18

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