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その10

その10
ケイコ



その夜、私はテツヤの家に電話をした

「もしもし、南部さんのお宅ですか?」

「はい、どちらさまでしょうか?」

「あの、私、テツヤ君の友達で、横田と申します。テツヤ君、ご在宅ですか?」

「ああ…、テツヤがいつもお世話になってます。陸上部の人ですよね?今、呼んでいきますんで。ちょっと待っててくださいね」

「はい。お願いします」

電話口に出たこの人、間違いなくテツヤのお兄さんだ…

南部聖一…

凄い人だよ、この人は!

ルーキーフェースで穏やかな物腰ながら、仲間の為なら地獄の底までって硬骨漢なんだ

あの紅子さんもその気骨にぞっこんで、長く友好関係を続けてきた

そして、公には出ていないが、私の部の先輩、相川さんの彼氏だ

電話口だけだったけど、人格者の佇まいがヒシヒシ伝わってきたよ…

「あ!おけい!おお、どうした?今さ、風呂から上がったばっかで、バスタオル一枚なんだよ、はは…」

あ~、凄いギャップだわ…

こりゃ、似ても似つかない兄弟だって、みんなが口を揃える訳だよ…


...



「テツヤ、今日はありがとうね。とても楽しかったよ。それで、ゴメン、今日のお前の話、ウチのオカンには話しちゃったんだ。お前のこと、勇気あるって言ってた。でさ…、いろいろとさ、お前には負担かけてるって自覚したよ、私さぁ…」

「ハハハ…、おけい、どうした?オレとお前はよ、軟なユルユル関係じゃねえだろ?お互い、はじけ合うようなさあ、そんなお二人様だろうが、オレ達は。うん、ソーダとか炭酸の泡同士がさ、刺激ししあうようなよう…!」

「ああ、そうだね…。あの、私がお前の告白、母親に言っちゃったこと、それはいいの?」

「お前のお母さんには、ぜひ直接お話ししなきゃってくらいだったよ、オレ。そんな誰に言われちゃ困るとか、そんなのオレには無縁だよ、おけい」

「うん。わかったよ、テツヤ。とにかく、お前のことは間違いなく好きだよ。このことだけ、今日は言いたかったんだ。明日じゃダメだったんだ…」

「おけい、よくわかった。ありがとうな。はは、”頑張ろう”な…」

ここで会話は終わった

気持ちが通じ合うって実感がしたよ

いや、正確には、お互いの心模様を気遣えるってことだろう

それは素敵な感覚だった…

テツヤ、おやすみ…





更新日:2019-09-05 23:27:52

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