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その6

その6
アキラ


オレの背中には、夏の陽射しが刺さった

熱っつく、優しく…

太陽は人間を焼くんではなく、照らしてるんだ

やっぱり…

なぜか、こう言う結論だった…


...


「ケイコちゃん、落ち着け、なっ…。大丈夫だから」

病院前ということで、周りはこっちを何事かと注目してる

オレは、彼女を抱きかかえるように、バイクから降し、バイク置き場の脇へ小走りした

「あー!アキラをこれで刺そうとしたんだ、私。人殺しだよ、死刑だ!わー!」

「ケイコちゃん、刺してしてなんかいない。なあ、これ、植木ばさみだろ。持ってきたんじゃなくて、その辺りにあったんだろう。どこにあったの?」

ケイコちゃんは、ブルブル震わせている口で「そこ」と言って、斜め前を指さした

「よし、まずこれ、そこに返そう。なあ」

オレは、ケイコちゃんが握っているはさみを、元の場所に置いた

「これで、大丈夫だ。いいかい…」

オレは、なぜか冷静だった

とても不思議なんだが、頭のどこかで、ふと想像してた…

麻衣と会ってる時、ケイコちゃんが偶然、やって来たらと

あの瞬間、デジャブのような感覚がしたんだ

オレは、まだガクガクと全身を震わせて、泣いているケイコちゃんの体を抱き寄せた

「いいかい、キスするよ」

「うん…」

人が見ていようが、構いやしない

オレは目をつぶったケイコちゃんの頭を、まるで壊れ物を支えるかのように両手で添えて、唇を重ねた

彼女の両手はオレの体を引き寄せて、強く抱いている

白昼、青空の下での長いキスだった




更新日:2019-08-23 23:13:32

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