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 通夜。
「ぼくのせいで、ぼくの冗談のせいで、父さんは……」
「寄席也。こっちへ来て、父さんの死に顔を見てごらん」
「ああっ! 笑いながら死んでるっ」
「生きてるうちはニコリともしなかった父さんがね……おまえはいいことしたんだよ。父さん、天国へ行けるよ」

 弔問客も集まり、お通夜の夜は更けていく。
「父さん死んじゃったから、今夜は母さんが代わりに、とびきりの冗談きかせてあげようね」
「いいよ、母さん。無理しなくても。父さんの命日くらい悲しそうな顔していようよ」
「バカッ! 一日でも笑いを欠かすと、悪魔に殺されるよっ」

「だいたい、悪魔、悪魔って子供の頃から聞いてるけど、ぼくはまだ、悪魔の姿を見たこともないんだぜ」
「バカだね! 悪魔が見えるようになったら、その人はオシマイなんだよっ」
「あのね。母さんは口を開けば、ぼくのことをバカ、バカって、やたらケナすけどさ。ぼくが利口じゃないのは、塾にも通わせずにギャグの特訓ばかりやらせたからじゃないか」
「バカはおよし。塾なんかで冗談が通じるもんかね」
「あ! また、バカと言った」
 ひそひそひそひそ。
 囁きあう弔問客たち。
「すごいな」「お通夜なのに、親子で漫才やってるぞ」

 このようにして、母と子のひきつった笑顔のうちに、父の四十九日も過ぎた。

更新日:2019-08-23 12:03:33

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