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その2

その2
アキラ



麻衣は3階の個室に入っていた

入口の開き戸は解放されていて、テレビの音が廊下まで聞こえる

「入っていいかな?麻衣…」

室内に首を伸ばし、テレビに見入ってる後ろ姿の麻衣に、言葉をかけた

「どうぞ。早かったわね、アキラ…」

麻衣はテレビから目を離さず、こっちを向かずにそう言った

「キャハハハ…」

なんか笑ってるわ

オレは、「じゃあ入るよ」と言って、室内に入った


...



この病院は数年前にできた、比較的新しい総合病院だ

明るくて、病院の雰囲気があまりしないし、それにここ広いわ

こんな”上部屋”で、なんかくつろいでるし…

まあ、コイツらしいや…

「待っててね、今いいところだから…。ああ、折りたたみのイスあるから、掛けてて」

これ…、トレンディドラマの再放送だ

コミカルなやつで、オレは観てなかったが、麻衣ってこんなの好きなのか…

麻衣は薄手のトレーナーにジャージ姿だった

病人には見えないが、後姿からだとやっぱり痩せたかな…


...


「お待たせ。テレビくらいしか楽しみなくてさ。アキラ…、よく来てくれたわね」

少しして、麻衣はテレビのスイッチを切って、こっちを向いた

化粧っ気のない顔は、明らかにすっぴんだ

髪も束ねてて、今までとは感じがずいぶん違った

「なに、ジリジロ見てるのよ。一応犯罪犯してるし、病人だからね。素顔よ、当然」

コイツ、やつれてはいても、相変わらず堂々としてるわ

オレなんかに”素顔”見られても、バツ悪そうにするとか全然ないし


...



「まだ、のた打ち回ってないじゃないか。帰るか、つまんないから…」

「フフ…、どうしたのよ、いきなり。そんないじわる言わないでよ」

こんなところは、いつもの調子と変わんないな

「結構、つらいのよ、症状とか出ると。めげそうにもなるわ。…、それで、どうだった?警察の方」

「ああ、”貴重”な経験させてもらったってとこだ。当初の想定通りで、おととい戻った」

「そう、よかったわ。こんな経験、なかなかできないからね。一皮剥けるでしょ、あなたも」

全く、生意気な小娘だよ、こういうとこ

しかも、いろいろ計算して皮肉ってる

さりげなくオレの反応探ってるし

油断できない…

...



麻衣は一呼吸おいてから続けた

「私の方は、二日後にここ出て、家裁の審判になるって」

「ああ、聞いたよ。大変だな、お前の方は」

「別に。刑がつかないのは分かってるし。大したことじゃないわ。ここではクスリ抜くレクチャーも受けたし、お金は相和会に出してもらって、まあ、マイペースでやるわ」

やっぱり今までの麻衣だ、ホント…

いろんな意味で大したヤロウだよ、コイツ


...



「えーと、タクヤだっけか、あの男とはもう会った?」

「ああ、昨日、”マッドハウス跡地”の前で会った。よくわかったな、オレがあそこ行くこと…」

「あなたが戻るのは教えてもらってたし、”あそこ”行くってのは感よ。それで、あの男、あなたにちゃんと謝ってたかしら?」

「ああ。もう、済んだことだからって、終わりにした」

「それだけ?」

「ああ」

「私にはビンタ2発だったのにね…」

「お前が主犯だろうが。タクヤを口車に乗せて。とんでもない女だよ、お前は」

そう挑発気味に言うと、例の鋭い目が光った

「それで、今日は何しに来たの?この前、病院来てって約束はしたけど。ただのお見舞いじゃないんでしょ?花とかも持ってきてないようだし…」

「ああ、そんなのないさ。今日、お前とは”最終”の確認をしたい。これで最後にする。ケイコちゃんとの諸々も含めてな。はっきりさせよう」

「そうなの…。で、私にどうしろっていうの?」

麻衣はオレの正面に向き直り、ベッドから両足を垂らして、そう言った

いよいよだ…!

今日ここで、コイツとの決まりをつけてやる!

ケイコちゃんの分まで…











更新日:2019-08-21 21:21:39

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