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小説

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亡者の夜 7

 フォルテモたちは鈍重な夜の亡者をなんなく交わしながら、家屋を回り込み、村の北にある雑木林を目指していた。幸いにも、起き上がりたちはフォルテモたちを追ってこなかったが、あらゆる夜の闇から夜の亡者は這い出してくる。逃げども避けようとも現れる夜の亡者に疲労が溜まり出した頃、突然夜の亡者がぐずぐずの土塊へと崩れていった。
「退魔の祈りが上がったんだ」
 フォルテモたちは目を瞬かせた。鬼哭が止むと、辺りは急激に静まり返った。とはいえ、先程まで亡者が徘徊していたのだ。しかも今度は何の気配もない。虫の集く音もなく、生温い風が粘っこく吹いてきた。亡者の夜の到来に、何もかもが身を潜めたかのようだ。
「うえーん、おっかないよう、ピアニカ」
 フォルテモとピアニカは互いに抱きつきながら、雑木林を目指した。夜の亡者から解放されたといえど、その凍てつかせる恐怖は未だにフォルテモたちを捉えていた。
「さっきまでの勇敢なフォルフォルはどこにいったにょよ?」
「だってえ」
 二人はおずおずと歩を進めていった。家屋も無くなり、村を囲む外壁が見え出すと、向こうの木の陰影が闇に溶けた。夜の亡者がまた姿を現したのだ。
「にゃんでにゃ!退魔の祈りはどうしたにゃ?」
「退魔の祈りは、村外れまで届かないみたい」
 亡者はふらふらと横に歩いたかと思うと、今度は背を向けたままこちらに向かってきた。
「キシャー!あの動きが嫌にゃ」
 悲鳴を上げて亡者から一目散に逃げた二人だが、でたらめに走り回ったお陰で、二人は方角が分からなくなってしまった。月光も雲に隠れてしまい、二人は今村のどこを移動したのか把握できなくなっていた。途中、輪を囲って手を取り合い踊る骸骨に出くわした。その傍で青い鬼火が浮遊していた。輪舞の中には、村人の死体が二つ。やがてその死体は、おぞましい夜を纏って起き上がった。フォルテモたちは抱きついて悲鳴を上げた。
「あんな風に亡者の仲間になるの嫌だ!」
 骸骨共は舞踏をやめると、フォルテモたちに向いて、一斉に歯をかたかたと鳴らした。
「なんにゃ、あのしゃれこうべ!馬鹿にしてるのきゃ?」
 ピアニカは石を拾って投げつけると、骸骨の髑髏に命中した。髑髏は首の上でくるくると回ると、またかたかたと歯を鳴らした。襲ってこないが、気味が悪いため、すぐに立ち去った。フォルテモたちは家屋が立ち並ぶ場所まで戻っていた。また村の中心辺りまで逃げてきてしまったのかもしれない。寺院の天辺にある鐘が暗い影となって家屋の先に見えた。来た道をそっくり戻ってきてしまったようだ。鐘に背を向け、もう一度歩き出した。夜の亡者は見当たらない。この辺りは退魔の祈りの加護があるのだろう。
 しばらく村外れまで歩いてから、ピアニカは羽耳をばさっと広げると、何度か羽ばたかせながら聞き耳をよく立ててみた。指輪のあの妙な音が、どこかで微かに聞き取れた気がした。抱きつきながら、そちらに方向を変えて歩いていく。しばらく進むと、やはり夜の亡者が現れた。道を塞がれ、二人は逃げ回りながら少しずつ音の方へと走った。しかし、遠目だが、四方を夜の亡者に囲まれつつあった。
「駄目にゃ。このままじゃ囲まれるにゃ!」
 不意にあの白いシーツのような幽霊が現れ、ピアニカの肩に触れていった。
「シャー!冷たいにゃっ、にゃー……。ち、力が抜けるにゃ」
 ピアニカは急に身体の力を失い、その場で座り込んでしまった。
「ピアニカ、しっかりして!」
 フォルテモはピアニカの腕を肩に回し、ピアニカを担ぎながら走った。夜の亡者は四方から迫ってきていた。
「にゃんか、寒いにゃ。も、もう駄目にゃ、フォルフォル」
「諦めちゃ駄目だよ」
 鈍重な夜の亡者を何とか凌ぐも、もうすぐ囲まれるのはフォルテモでももう分かった。どの方角に行こうが、亡者たちはその隙を埋めるように現れてきていた。あの鬼哭の唸りが大きく響いてくる。青白い人魂が浮かび、骸骨共は死の舞踏を舞って群がり出してくる。フォルテモたちは足を竦ませる亡者の鬼哭に、自分たちも泣き出しそうになった。恐ろしさの余り、フォルテモは突然歌い出していた。
「フォルフォル、歌ってる場合じゃにゃいにゃ」
 ピアニカも何とか四方の亡者を見渡すと、迫り来る夜の亡者が離れ始めていた。
「にゃに?にゃんで?」
「マムートの里だと、夕飯の前にこの歌を歌うの。そうすると、里に不吉なものは近寄らないんだって」と歌をやめ、話し出した途端、夜の亡者がまた近寄ってきた。間延びした口調のせいで、鈍重な夜の亡者の歩みですら、速く感じてしまう。
「シャー!フォルフォルフォルフォル!説明いいから、早く歌うにゃ!」

更新日:2019-08-15 09:20:26