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小説

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亡者の夜 3

 レビンとフォルテモたちはあの岩窟で一晩を過ごし、朝早くマローニュへ向けて出発した。川沿いに進めば、間違いなく村の近くに出るだろうことは大体想像できた。そうして村に辿り着いたのは、もう夕暮れの頃だ。休み休みだったが、案の定、森を抜ける頃にはマローニュの近くまで出ていた。思いの他、村から近かったのには驚いた。馬で半日も走ればあの岩窟には辿り着く。しかし、何故今まであのような岩窟があることに気づかなかったのか?とも思う。が、マローニュの北に広がる森は、誰もそう奥まではいかない。いや、むしろ近寄ろうとしないというべきか。王の森として立ち入りを禁じられている区域もあり、何よりも森は人跡未踏地にまで広がるのだから、その危険は誰もが知っているのだ。妖しの存在もよく囁かれたものだ。
 レビンが村に戻ると、門守に呼び止められた。頭に包帯を巻き、酷い怪我をしていた。
「どうしたんだ、その怪我は?見れば、随分と村が荒れているような?」
「フルデルが現れたんだ」と守衛は手短に答えた。
「なんだって?」
「とにかく、レビン。急ぎ寺院へ向かってもらえるか?お嬢があんたのことを待ってるんだ。詳しい話はそこで」
 アイリーンが自分を待っている?きっと、ケリーのことだろう。ケリーがトニーデの奴隷だと明かされたあの日の態度で分かる。自分たちを信じていたのだろう。罪人でも何でもない、清廉潔白な夫婦だと。村の仲間だと、アイリーンはネブラカネーザ同様に接してくれていた一人だったのだから。気持ちを裏切られたその衝撃も大きいことだろう。素直に謝るしかない。アイリーンの性格はよく分かっているつもりだ。あの娘は曲がったことが大嫌いだ。そして、自分がこうと決めたことには実直だし、好意を示した者には、誰の目も気にせず素直に接してくれるのだ。そのアイリーンの心を裏切った。いや、ずっと騙していたことになる。妻の分まで謝るしかない。妻はもうトニーデの奴隷ではないし、その罪を贖った。命と引き換えに、トニーデの幻影も大罪の烙印も消えたのだ。
 寺院へと向かおうとエルフトたちの手を引くと、フォルテモが手を引き返した。
「どうしたんだ?フォルテモ」
「嫌な感じがするの。この間までの村とは何か違うの」
 フォルテモは不安な表情を浮べて、ただ頭を振った。
「フルデルが襲ってきたんだ。犠牲者も沢山出たのだから、仕方ないよ」
「違うよ、レビン。何か、悪いことが待ってるよ、きっと」
 ピアニカもフォルテモの態度を気に掛けた。
「もしかして、口が痺れてるにゃ?」
 そう訊ねると、フォルテモはこくりと頷いた。
「こういう時のフォルフォルは信じた方がいいにゃ、レビン」
「分かった、分かった。なんにしても、寺院に行って事情を聞かないとね。二人は水車小屋で待っててもらえるかい?話が終わったら、すぐに戻るから」
「じゃあ、ご飯の準備しとくね。でも、気をつけてね、本当に」
 フォルテモとピアニカは、念を押してレビンと別れた。村の有様は酷いものだった。フォルテモの口に広がる違和感は拭えない。不安を抱いたまま水車小屋に着いたフォルテモたちは、中へ入ると悲鳴を上げた。薄暗い炉のある居間に、ケリーとネブラカネーザが黙って立ち尽くしていたのだ。二人は互いに抱き合い、戸口で固まった。
「お、おばさん?」
「にゃんでケリーがいるにゃ?」
 ケリーもネブラカネーザも微動だにしない。フォルテモたちには見向きもしない。ただ、あの白濁とした瞳を中空に漂わせて立っているのだ。フォルテモもピアニカも、これから不吉なことが起こると、後退りしながら小屋を出て行った。


更新日:2019-08-14 13:21:10