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小説

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「私の妻もまた起き上がるのか?」
 壮年の男は、足元で痛ましく眠る妻の遺体に顔を歪めた。すると、紺地の長衣の者はゆっくりと男に振り向いた。男は長衣の者の頭巾の中を目にし、小さな悲鳴を上げた。長衣の者の頭巾の中には、あるべき顔はなかった。あるのは、まるで灯る蝋燭のような、一筋のオレンジ色に輝く炎であった。
 男はその炎に囚われた。目を離すことができなかった。火の魔力に中てられたように、意識が炎の中へとくべられていく。

 元来、火にはそうした魔力が宿るというが、まさに今、男の意識は、火の放つ朧な世界に囚われていた。頭巾の奥に灯る炎は遠近感を与えず、目の前で灯っているのか、それとも遥か遠くで灯っているのか分からなくなる。次から次へとくべられる意識がその灯火をはっきりと捉えた時、そこにはまるで、無限廊のように続く蝋燭の灯火が連なって見えた。
 男はまたもや小さな悲鳴を上げた。
 灯火の者は腕を伸ばし、慄く男の左手を取った。その指に嵌められた指輪をじっと見据えるかのように、己の灯火で照らしていた。男の指輪を外し、灯火の者は石段に向き直った。
 最上段に蝋燭が二本あり、その一本が今灯っている。中段には横一列に大小様々な蝋燭が並び、下段にも同じように並ぶが、下段の蝋燭は細く短いものばかりだった。今、この石段には十数本ほどの蝋燭が灯っていた。閑寂な暗闇の中で、朧に、そして不気味に陰影を生み出していた。
 灯火の者は指輪を最上段の灯っていない蝋燭の前に置くと、指輪から虫の集きのような音が鳴り響いた。そこで灯火の者は両腕を広げた。堂内のあの奇妙な音が次第に大きくなり、それは大音声の祈りの唱和となっていく。
 指輪を置いた蝋燭が音を立てて発火し、一度か細く揺れながら静かにその炎を灯した。すると、額ずいていた男が面を上げ立ち上がった。と同時に、焼死体の女も起き上がった。女の身体は随分と焼けていたが、顔はまだ生前の面影を残していた。大柄な男の身を包む鎖鎧は血痕に染まっていた。その瞳は白濁し、焦点を得ぬまま中空を見据えていた。
 この二人は、間違いなく死んでいるはずだった。仮に息を吹き返したにしても、とてもまともに生きていられるような状態ではない。

 後方の不思議な子供たちは、死人が起き上がったことに驚き、抱き合った。
「フォルフォル、にゃにあれ?生き返ったにゃ」
 猫娘は緑ずくめの少年に向いた。
「ねえ、ピアニカ。あの顔が火になってる人って、魔法使い?」
 緑ずくめの少年は、間延びした口調で訊き返した。
「あたしにも分からにゃいにゃ」
 二人の子供は怯えながらも、また石段の方をこっそりと窺った。
「ケ、ケリー、ネブラカネーザ……」


更新日:2019-11-28 21:24:43