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小説

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トニーデの幻影 8

 翌日。レビンとケリーは朝催いも過ぎた頃、寺院を訪ねた。寺院へ向かう途中、やたらと守衛が目についたのが気になった。寺院の近くまで来ると、今度はローランの都の役人と武装した兵の姿があった。レビンとケリーは怪訝に思いながら、役人たちとは目を合わさないように寺院へと入った。礼拝堂は朝の祈りをする村人が妙に多かった。レビンたちの姿を見るなり、誰もが不審な目を向けてきた。レビンたちは村人の視線にもなるべく合わせないよう司祭を待っていると、奥へと通された。通された客間で、マリロン司祭とオズバンが待っていた。
「さあ、掛けなさい」とマリロンは席を勧め、レビンとケリーは腰を掛けた。
「さて、わたしに用でしたね」と、オズバンは二人を窺った。
「はい。あなたの占いで、探し物を見つけて欲しくて」とレビンは言った。
「探し物は指輪かね?」
 レビンは顔をしかめた。何も言わずに何故分かるのだろうと疑問に思った。
「お願いします。あなたの占いで、わたしの指輪を見つけて欲しいのです」と、ケリーは藁にもすがる思いで占い師を見つめた。
「ええ、いいですよ。魔法の指輪ですものね」
 占い師の言葉に、レビンとケリーは身を強張らせた。
「なんのことでしょう?」とレビンは不審な目で訊ねた。
「とぼけなくても結構ですよ。あなたの妻はトニーデの奴隷ですね?ようやく見つけましたよ」
 その一言で、ケリーが凍りついた。
「もう、隠さなくてもよい。全てはこれから明かされるぞ、ケリー。もう逃げられやしない」と、マリロンが厳めしく言い放った。
 ケリーはそこで弾けるように席を立ち、客間を飛び出して行った。
「待つんだ、ケリー!」とレビンもすぐさま後を追いかけた。
 マリロンとオズバンはゆっくりと席を立ち、不敵な笑みを浮べた。外で突然大きな喚声が上がった。寺院を出てすぐのところでケリーは武装した兵に捕らわれ、その地に平伏していた。後ろ手に縄で縛られた。レビンも武装した兵に取り押さえられている。ケリーは泣き叫び抵抗したが、兵の槍で打ちつけられて苦痛に呻いていた。レビンもまた激しく抵抗したのだが、やはり槍で打ちつけられてしまった。村人たちが集まり出してきていた。その兵たちは村の守衛ではない。ビョルンの都から派遣された正規の兵だった。そして役人たちが集まってきた。
 マリロンたちが取り押さえられたケリーの元に来ると、その隣に兵を束ねる騎士隊長らしき者が並んだ。
「ご苦労だったな、マリロン司祭。隣の村で待っていた甲斐があった」
「これはエルモンド卿。ようやく捕らえましたな、最後のトニーデの奴隷を」
 エルモンドは満足気に一つ頷いた。
「さあ、この場でトニーデの烙印を露にするぞ。確認次第、ローランに連行する。陛下はすでにフルデル討伐に向かわれているが、陛下の御命令通り、一日ローランで晒し、魔女は火炙りだ」
 エルモンドは兵に顎で指示すると、兵は短剣を抜いて、ケリーの衣服を掴んだ。ケリーは哀願して抵抗するが、再び槍で強く打ちつけられた。兵はケリーの衣服を背中から切り裂いた。そして露出されたその背には、丸い大きな烙印が露になった。レビンは目を逸らし、苦悶の表情を浮かべた。
「我らは、魔女の力に目覚めたトニーデの最後の奴隷を捕らえた。さあ、見るがいい、マローニュの者たちよ。これがトニーデの烙印だ」
 大声で集まる村人たちに声を掛けながら、エルモンドの従者が一枚の巻物を広げてかざした。その巻物には、ケリーの背中と同じ紋様の絵が記されていた。村人たちから大きなざわめきが起こった。誰もが、魔女だ、水車小屋の夫人はやはり魔女だったんだ、起き上がりも魔女の仕業だと、口々にそう言った。そして、ケリーに向けて石が投げられ、ケリーの顔面を捉えた。一つ投げられると、石は次々に投げ込まれた。
「嘘よ!」と、人だかりから叫び声が上がった。アイリーンだった。ケリーの露になった烙印を見たアイリーンは、肩を震わせそのまま絶句した。
「待ちなさい、皆の者。この女はローランで一日晒し、その後火炙りだ。魔女はその身を焼き尽くさない限り、滅ばぬというからな」
 護送車を引く馬がやってくると、ケリーは護送車に引っ張られていった。
「わたしは何もしていません!後生ですから、どうか、どうか御慈悲を。マリロン司祭、お願いです」ケリーが寛恕(かんじょ)を乞うと、マリロンが通りの先を指さした。
「ならば、あれを見なさい」指さした先には、あのネブラカネーザの姿があった。どこを見るでもなく立ち尽くしていた。村の守衛がネブラカネーザに注意を払っていたが、今のところ、起き上がりの被害も不審な行動もなかった。ケリーは驚愕の表情でそれを見た。
「ど、どうして、ネブラカネーザが?」
「あなたが起き上がらせたのでしょう、魔女め!」とマリロンは侮蔑した。
 

更新日:2019-08-12 15:53:40