• 作品を探す:

小説

携帯でもPCでも書ける!

  • 22 / 48 ページ

トニーデの幻影 5

 占い師が訪れた翌日。朝催い(あさもよい)も過ぎた頃、村は少し騒然となっていた。村を歩く二人組みの旅人に、誰もが道を開けて見上げていた。そして珍妙な会話を始めたのだった。
「おい、ありゃ、なんて大きさだ。鬼じゃねえのかい?」
「鬼?もしかして人食いのオーガか?ありえる話だ」
「オーガは人里の近くに棲みつくって話だ。もしかして?」
 というものだった。二人のうち一人は頑健そうな老人だが、もう一人はオーガと見紛われてもおかしくないほどに大柄な体躯の持ち主だった。優に二メートルを超すだろう背丈と、鍛え上げた身体は筋骨隆々としていた。左胸に短剣を吊るし、背中に兜を垂らし、鎖鎧に身を包んでいる。腰には両手で十分に持てるほどの柄の剣を提げていたが、その剣を納める鞘は柄の長さとは打って変わって、不恰好といえるほど短かった。小剣程度しかないのではないだろうか。歳は見た目二十代中頃であろうか。短く刈り込んだ黒髪と精悍な顔つきをした旅の戦士といったところだ。その大男は村人の囁きに振り返った。
「誰がオーガだって?おまえか?おまえが言ったのか?」
 大男は村人を一人捕まえると、大きな手でその顔を鷲掴みにした。掴まれた村人は悲鳴を上げて首を振った。
「わっはっはっは。ロッシュよ、相変わらずじゃのう。寄る辺の先々で、もはや恒例行事だな、おまえは。退屈させないのう」と、大男の連れの老人が豪快に笑った。
 その老人も旅の戦士といった風体だ。やはり鎖鎧に身を包み、その肩に大きな戦斧を担いでいた。豊富な鬚を蓄えたその顔は赤茶けていて、意匠を凝らした兜を目深に被っていた。歳はどう見ても老人。背丈もヒュミルの女性と同程度と小柄だが、しかし、その身体はがっしりと骨太で、まるで樽のような体格であった。
「笑いごとじゃねえよ、ダンパー。くそ」と、ロッシュは捕まえた村人を放り出してまた歩き出すと、村人の囁きは赤茶けた老人に矛先が変わった。
「なんだよ、あの赤い老人は?」
「妖精にドワーフっていたよな、確か?鬚だって蓄えてるし」
「いや、ドワーフは小人の姿だろ?もしかしてあの肌の色といい、フルデルのドゥアガーなんじゃないのか?邪悪な一族って話だぜ」
 ロッシュが思わず吹き出すと、ダンパーはロッシュをきつく見上げた。
「貴様、何笑っとるか!」
「いや、あんただって、さっき」
「喧しい!」
 ロッシュは年寄りの短気に怯んで顔を歪めた。ダンパーは振り返り、怒声を上げた。
「おのれ!誰がドゥアガーじゃ!あのような邪悪な眷属に成り下がった連中と混同するとは、言語道断じゃ!わしゃ、ノルドじゃ!土の精霊ノームよりその命を授かったのじゃ。黙っておれば好き勝手いいおって!百年に亘って続いた亡者の夜から、共に生き延びるための知恵を授け、そして手を差し出したのは誰だと思っとるんじゃ。亡者の脅威から少しでも身を守るため、岩窟での暮らしと術を貴様らヒュミルに教えたのはわしらノルドじゃぞ!恩を仇で返すとはまさにこのことじゃ。さっさと寺院に向かうぞ、ロッシュ!」
 ダンパーは赤い顔を更に紅潮させて、大股で歩き出した。ロッシュは大きく溜め息を漏らすと、その後へと続いた。
 その様子を遠くの物影から、フォルテモたちが見ていた。
「やっぱり、ロッシュとダンじいだ。おーい……、むぐぐ」
 呼び止めようとしたフォルテモの口を、ピアニカが慌てふためいて塞いだ。
「駄目にゃ、フォルフォル!あたしたちがまたのこのこと後をついてきたにゃんてばれたら、岩石じじいのげんこもらっちゃうにゃ。うう、あれは思い出すだけでも嫌にゃ」
「あ、ぼくもダンじいのげんこ嫌だ。目から星が一杯でたもん」
「でしょ?あの二人に捕まる前にどっか他行くにゃ」
「でも、ロージーがいないね?ロッシュといつも一緒なのに」
 フォルテモは辺りをきょろきょろと見回した。
「置いてかれたんじゃにゃい?岩石じじいはくろんぼ苦手だから。あんな黒こげの腹黒女にゃんか、誰も連れて行きたくないにゃ、ぐえっ!」
 突然何かに首を締め上げられたピアニカは、舌を出して呻いた。その首に馬の尾のようなものがきつく絡みついていた。
「あっ、ロージー!」と、フォルテモはピアニカの後ろに立つ者を見上げた。

更新日:2019-08-14 18:42:38