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小説

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 水車小屋が見えてくると、ぎいぎいと水に蹴られる水車の音が聞こえてきた。ジャグリーンは小走りに水車小屋に向かい、戸口を叩く前に深呼吸をした。
「もう、なんでわたしが余所者と関わり合いにならなければならないの?嫌だなあ。ほんとにレビンとケリーがお目付け役だったら、何告げ口されるか分からないもの。お姉さまは、いつもわたしに面倒ばかり押し付けるんだから!」
 ぶつくさと戸口で文句を言っていると、戸口が急に開き、レビンが出てきた。ジャグリーンは思わず身を竦めた。
「ん?村長の所のジャグリーンじゃないか。どうしたんだ?」
 レビンが目を細めると、ジャグリーンはもじもじと小さな声で言った。
「ア、アイリーンお姉さまが呼んで来いっていうから。今、よく当たる占い師が来てるの。だから、気晴らしになるからって」
 レビンは妹のジャグリーンが、自分たちを毛嫌いしていることは承知していた。だからという訳ではないが、レビンは少し柔らかく笑顔を向けて、感謝の意を述べた。
「分かった。ありがとう、ジャグリーン。今、妻も連れて行くから、先に行っておくれ」
「村の広場だからね」
 ジャグリーンはそう伝え終えると、そそくさと逃げ出すように去っていった。

 レビンは小屋の中へと戻ると、仕事もまともに手付かずの妻に、占いの話を持ちかけた。幸い、職人の手伝いも来ていたし、占いのせいなのか、今日は粉引きの数も少なかった。
 覚悟はしていたが、ネブラカネーザの死がよほどショックだったようで、食事も喉が通らないほどだった。首領を討ち取った名誉の戦死だとレビンは慰めていたのだが、妻の悲しみは深かった。占いの話もどうにも気乗りしないといったケリーだったが、レビンは気晴らしにとケリーを説得し、その評判の占い師の元へと向かった。
 陽も大分傾いてきた。西の空がいよいよその頬を染め始め、人だかりももう随分と減っていた。アイリーンが急き立てて声を上げている。あの娘は相変わらずだと、レビンは妻に微笑すると、妻にも少し笑顔が戻った。
「さあ、行こう、ケリー。少し急ぐ振りしないと、アイリーンを怒らせてしまうぞ」
 ケリーは薄っすらとだがまた笑みを向け、小走りでレビンに手を引かれていった。

 占い師が、頭巾の中から柔和な笑みを零していた。
「さあさあ、お掛けなさい。わたしもこれで今日は終いにしますので。せっかくですから、お二人ご一緒に見て差し上げましょう。ご夫婦の良き未来を占ってあげますよ」
 レビンとケリーは占い師の言われるままに腰を掛け、二人は恥ずかしそうに互いに見つめ合った。
「おや?ちょうどいい。お二人のその左手をこの水晶球の前に出してください」
「左手ですか?」と、レビンは少し不思議そうに訊いた。
「ええ、そうです。お二人のその左の薬指に嵌められた指輪は、婚姻の証でございましょう?夫婦の未来を見るには打ってつけですので」


更新日:2019-11-29 21:25:36