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小説

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トニーデの幻影 4

 フォルテモたちは結局寺院に忍び込むことができなかった。二階の一室で灯りが灯ったが、二階へ登ろうにも足を掛ける場所も何もない。ピアニカ一人ならば二階へ登れたのだが、二人は兎にも角にもお腹を減らしていた。フォルテモのお腹の音が止まらず、まずは食料をどうにかしようと村中を歩いたが、もちろん食べ物が落ちているはずもない。各家から粥の匂いやスープの匂いが漏れ、もう占い師のこともすっかり頭から離れてしまっていた。そうして、昼間に寄った水車小屋の片隅で、二人はお腹を鳴らしていた。
「ピアニカ。お腹減って、もう背中とお腹がくっつきそうだよ」
「大丈夫にゃ。フォルフォルのお腹はまだこんなにふっくらしてるにゃ」と、ピアニカはフォルテモのぽっこりとしたお腹を指先で突いた。
「なんかいい匂いするね」
 小窓の隙間から何やら良い匂いが漏れてきていた。ちょうど小さな小箱が転がっていて、二人のエルフトはそれを足場に小窓から中を覗くと、中は居間になっていた。食卓を囲み、ちょうどレビンとケリーが食事をするところだった。自在鉤に吊るされた鍋から、ぐつぐつと湯気が立ち上っていた。
「お腹減った」
「うう、もう目が回りそうにゃ。何かおこぼれ貰えにゃいかしら」
 余りの空腹に窓から顔を出し過ぎていたのだろう。小窓から覗く姿をケリーに気づかれてしまった。フォルテモたちは慌てて顔を引っ込めた。
「どうしたんだ、ケリー?」と、レビンは窓に目をやるケリーに問いかけた。
「さっきのエルフトの子たちがいたのよ。もしかしたら、お腹空かせているのかしら?」
「そこの窓にいたのかい?」
「ええ。わたし、ちょっと見てくるわ」
 ケリーが立ち上がると、レビンも一緒に立ち上がった。
「私も行こう」
 夫婦は小屋から外へと出ると、居間の小窓へと向かった。窓の下に小さな木箱があるだけで、エルフトたちの姿はもうなかった。水門ももう閉めてあるので水車の音もなく、虫の集きとホーホーと鳴く梟の鳴き声が遠くで聞こえた。小屋を回ると裏手の小屋の出っ張りに姿を隠しきれていないエルフトを見つけた。レビンたちの気配に気づいたフォルテモたちは、身を隠すように顔だけをこちらに向けていた。
 ケリーはくすりと笑った。
「お腹が空いてるの?」と手を差し出すと、二人はそそくさと逃げ出し、小屋を回りこんだ。その陰から頭をひょっこりと出してまたこちらを窺った。
 ケリーはまた近寄って、そこで腰を落とした。
「おいで、ほら」
「シャー!」
 ピアニカはとっさに威嚇し羽耳を広げたが、どうにもお腹が減ってそれ以上声も出なかった。フォルテモのお腹の音はどんどん大きくなっていく。
「少しくらいなら、食べ物を分けてあげられるわ」
 二人のエルフトは互いに顔を見合わせると、自然と顔がほころび、小屋の陰から出てきた。ケリーは二人のエルフトをまるで羨むように見つめていた。レビンはそんな妻を物悲しく思い、肩に手を掛けた。
「もう少しの辛抱じゃないか」
「あなた……」
 ケリーは夫の胸に頭を寄せ、小さく頷いた。
 レビンは妻の背中を軽く叩くと、エルフトたちに声をかけた。
「よし。古いけど少しパンもあるし、今日はスープも作ったんだ。足らなければ、粥をまたつくろう。さあ、こっちにおいで」
 フォルテモたちはレビンとケリーの小屋に呼ばれることにした。互いに名を名乗り、食卓を囲んだフォルテモたちに、ケリーは黒いパンと豆を煮たスープをだすと、二人はすぐにパンにかぶりついた。
「硬いにゃ」
 ピアニカはガリガリとかじりついていた。
「もう古いパンだから、こうスープに浸して食べるんだよ」
 レビンは手本を見せるように、パンをスープに浸してそれを口に運んだ。
「さあ、たんとお食べ。粥も作るからね」とケリーも勧め、粥の準備を始めていた。
「ケリーおばさん、ありがとう」
 フォルテモは硬いパンを頬張ってお礼を言った。ケリーは自在鉤を眺めた。どことなく揺れているような気もして、炉の揺れる自在鉤を掴み、何かしら?と訝ってから、鍋を吊るして粥を作り出した。
「もう少しで粥もできるから、それも食べてね」
 フォルテモは頬を押さえながらパンを頬張って、自在鉤を見上げていた。
「フォルフォル、どうしたにゃ?パンが硬くて歯痛いにゃ?」
「ううん、なんでもない」
 レビンは自在鉤を眺めるフォルテモと自在鉤を見ていた。「そうか、子供か」と、独り言をいいながら自然と顔がほころんでいたことに、本人は気づいていない。
「にゃんか嬉しそうにゃ、レビン」
「ん?ああ、そうかい?君たちが余りに美味しそうに食べるからかな」
 二人はふーんといって、また食べ始めた。

更新日:2019-08-12 12:19:19