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小説

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トニーデの幻影 3

 エドガーが戦から戻ると、ネブラカネーザ他二名の戦死者の報告がマローニュの村を駆け巡り、家族を無くした者たちは深く悲しんだ。しかし、敵の首領を討ち取ったというネブラカネーザの名誉の死は村にせめてもの慰みとなった。咎人であったネブラカネーザの墓は、普通村外れの墓地になるのだが、その戦果を称えられ、村の者たちと同じ共同墓地にて墓を建てた。遺体が無いため、代わりにその者の形見などを棺に入れ埋葬された。
 葬儀は慎ましく執り行なわれた。ネブラカネーザの死を誰よりも深く悲しんだのはケリーだった。レビンに抱かれながら墓を立ち去るケリーを見送るエドガーの隣で、アイリーンが心配そうに恋人のエドガーを見つめていた。
「どうしたの、エド?なんだかとても浮かない顔よ」
「いや、なんでもないんだ」
「ネブラカネーザには、あんたも色々と指導されたんだもんね。この村にその剣術を買われて、守り手としてみんなの指南役になったんだもの。エドも一目置いていたものね」
 エドガーはアイリーンに小さく頷いたが、浮かない理由は別にあった。しかし、それを口外するわけにはいかなかった。ビョルンからも固く口止めをされていた。
 エドガーの心を鬱屈とさせているのは、あの不吉な起き上がり共の件だった。亡者は普通夜にしか現れない。只事でないことはエドガーでも察していた。起き上がりは皆、東に向けてフルデル共を追うように去って行ったが、果たしてこのまま終わるのだろうかということだ。境界壁には哨戒に当たる兵や僧がいつもよりも多く配備されたが、心許なかった。不安だけが募るばかりだった。どちらにせよ、フルデル共も壊滅させたわけではない。ビョルンの対策案が決まるまで守りを堅め、警戒を怠らないようにする以外ない。エドガーはそう自問自答を繰り返し、墓地を後にした。
 葬儀から十日後のある日。陽も傾きかけた昼下がりに、土埃を上げながら荷馬車が何台もマローニュの村に入ってきた。藁を大量に積んだ荷馬車が最後に大通りを通り過ぎると、村人たちから口々に野次が飛んだ。
「馬鹿野郎!もっと静かに通れねえのか!」などと、怒号が響いた。
 最後に通過した山のような荷馬車の藁から、ひょっこりと少年の頭が飛び出した。緑のとんがり帽子に少し尖った耳、下膨れの真っ赤なほっぺたと円らな瞳が、辺りをきょろきょろと覗いた。
「ピアニカ、着いたみたいだよ」と、緑の少年は、とても間延びした口調で話しかけた。
「やっと着いたにょ?もう疲れたにゃ。身体中痒いし」
 今度はかつらを乗せた猫のような女の子の頭が出てきた。ただし、耳の辺りには猛禽類を思わせる羽があった。
「ロッシュたちはもう着いてるんだよね?」
「あの木偶の坊とせっかちにゃ岩石じじぃのことだから、とっくに着いてるはずにゃ」
 二人の不思議な子供たちはきょろきょろと軒先を眺めると、庭仕事をする一人の親父と目が合い、藁の中にすぐに頭を引っ込めた。
「村の人と目が合っちゃった」
「大丈夫にゃ、バレやしにゃいわよ。それにしても時化た村にゃ」
 不思議な子供たちが隠れた荷車を、先ほど目が合ったバドが目を瞬かせて眺めていた。
「おやっさん、どうしたんだい?」と、通りがかった男が声を掛けた。
「いや、あの藁をたんと積んだ荷車に、男の子とにゃあにゃあと喋る猫がいたんだよ」と、バドは首を何度も傾げていた。
「へー、喋る猫かい?そいつはもしかして、リビエイラ族じゃないのかい?」
「リビエイラ?なんだね、それは」
「リビエイラってのは、エルフトの内の一つさね。確か、妖精猫のケット・シーを起源にした種族だって話だぜ」
「エルフト?」
「妖精をエルフなんて呼ぶだろう。俺らみたいな人間は巨人起源のヒュミルだけど、エルフトは妖精起源の連中だから、耳も少し尖ってる。それで昔はエルフの人とか呼ばれていたみたいだけど、言い慣らされていくうちにエルフトと訛ったらしい。小人ばかりだから、背丈半分の妖精とかで、ハーフエルフなんて呼んだこともあったみたいだが」
「へえ。あんた、物知りだねえ。じゃあ、あの真っ赤な下膨れの少年もか?」
「下膨れねえ?」男は腕を組んで考えた。「マムート族かねえ?」
「マムート族?あれがかい」
「いや、分からねえけどさ。ずんぐりした下膨れのエルフトっていうと、確かマムート族だって聞いたことあるんだよ。ここよりはるか北の地に郷があるって話だが、なんにしたって、こんな辺境の地でエルフトなんて聞いたことないから、こりゃあ、奇瑞かもしれねえぜ。エルフトに会うと、ちょっとしたいいことがあるって話だ。妖精起源の連中だから、そんな尾ひれのついた話もあるのさ」

更新日:2019-08-11 18:24:10