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小説

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トニーデの幻影2

 戦から三日後。ローランの都に構える居城ガレン城に戻ったビョルンは、苛立ちながら玉座に荒々しく腰を落とした。足を組み、肘掛に肘をつきその上に顎を乗せると、大袈裟に息を吐きだした。そのビョルンの傍に控えていた大臣の一人が、ビョルンに耳打ちした。
「恐れ入ります、陛下。レンブランより、メルビス教のテイジン大神官がお見えになられています」
 ビョルンは頬杖をついたまま、大臣のケルンに目だけをくれた。
「大神官が?何ようだ」
「はい。お話しは直接したいとのことです」
「分かった。大神官を通せ。それから人を払え。ケルン、お前もだ」
「かしこまりました」

 側近の兵たちも払われ、一人大神官を待つ間、ビョルンは起き上がりのことを考えていた。亡者は夜に蔓延るもの。陽の光のあるうちから現れるなど異常なことだった。極稀に、昼間でも現れるという起き上がりの話も無いわけではない。そういった起き上がりはルブナンと呼ばれた。自分が死んだとも気づかず、腐敗してゆく身体で日常を送るという奇妙な連中だ。こういった起き上がりには退魔の祈りも効果が薄く、彼らが自然にいなくなるのを待つばかりだというが、特に危害があるわけでもなかった。
 しかし、昨日の戦場で起き上がった連中は、それとは明らかに違う。ビョルンはある可能性に、大きく息を吐き出した。
「魔法使いか……。だが、死者を呼ぶネクロマンシーの術は闇に葬ったのだ。時宜(じぎ)を得たように大神官が我が城に訪れたのも、奇妙な縁を感じずにはいられないな」

 一人呟く中、玉座の間の両扉が開かれた。ゆったりとした紺地の長衣に身を包み、高い被り物を頭に載せた老齢の男が入ってきた。その手には仰々しいほどの長杖が握られていた。この地域で布教されているメルビス教の大神官テイジンだった。ここローランの都から更に西の先にある、メルビスの大神殿を構えた町レンブランの領主であり、メルビスの最高位の一人であった。
「ビョルン陛下、お久しぶりでございます」
「おお、大神官。よくぞお越しいただいた。して、何か困り事か?」
 ビョルンは玉座から立ち上がり、大神官の元へと歩み出した。
「戦場から戻ったばかりだと伺いました。日を改めようとも思いましたが、お察しの通りでございます」
 ビョルンの眉間に皺がよった。
「まさか、フルデル共か?」
 大神官テイジンはビョルンを見据えて頷くと、ビョルンは大きく息を吐き出し、また玉座に腰を荒々しく落とした。
「援軍が欲しいのだな?」
「はい、その通りでございます」
「数はどれほどだ?」
「恐らくは千以上かと」
「千だと?」ビョルンは額を押さえ唸った。「レンブランの兵は今いかほどなのだ?」
「傭兵や義勇兵も募り、近隣からも集めた総数で六百。なんとか半分を超えるまでは確保しました。しかし相手はフルデル。しかもそれほどの軍勢を率いているのですから、それなりの頭がいるはず。今の兵力では太刀打ちのしようがないのです。陛下の誇る騎士団と兵力もご助力願えれば心強い上に、兵の士気も高まりましょう」
「だとすれば、我が騎士団の大半を投入することになるな。こちらでも義勇兵や傭兵を募れば確かに千を越せるが……」


更新日:2019-11-29 21:10:31