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小説

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自転車

私は現在、堺市に住んでいます。
堺は、自転車の街と言われていて、私がおそらく生涯で最も長く住む街になるでしょう。
私は精神障害を持ち、たくさんのいじめや差別にあってきました。

精神障害を持っているだけで、恋人や夫を持てない、と決めつけて、勝手に一人暮らしと決めつけられたりします。

以前、私はジプレキサというたいへん重い薬を飲んでおり、自転車に乗るのがたいへん苦痛でした。

強迫観念が来るのです。特に線路沿いを通る時がつらかった。線路で人に当たって、その人が電車にひかれたらどうしよう、という妄想が来て、実際そうなった、と思い込んでしまうのです。

その頃、私は作業所に通い、ピンクの自転車に乗っていました。
そのピンクの自転車を失い、新しい自転車で、ジプレキサ以外の薬でやっと安定して走行している今。

あのピンクの自転車がかわいそうだった。

自転車大嫌い、自転車嫌い、と思いながら乗っていたから。
せめて、謝りたい。
あの時の私を、寛解した今の私であの、ピンクの自転車と一緒に塗り替えたかった。

失った命、失った青春を懐かしい。ただ懐かしい。

ピンクの自転車を母が人にあげてしまって、しばらく自転車に乗らない北の街に住んだ日々を、ピンクの自転車にまた乗れば、埋められる気がするのに。

時々、大和川を渡るとき、いつも一緒にいてくれる大事な人が言います。

ローエンスティン、ローエンスティン...

サウスキャロライナという洋画で、主人公は、心の傷を癒してくれた女医のローエンスティンと結ばれますが、最後は家族を選び、故郷のサウスキャロライナに帰ります。橋を渡る度にローエンスティン、ローエンスティンとつぶやく...という終わり方です。

あの、大嫌いだったピンクの自転車は、もう一度、愛してあげたかった。今、橋を渡って、大和川を渡って、大嫌いだと思っておざなりにした、本当は愛している故郷に帰りたい。

更新日:2019-08-08 21:35:17